第7章「虹の橋の彼方へ」
この章では、桜が最期の朝を迎え、登校途中で事故に遭い、その魂が虹の橋を渡る姿を描きます。
両親を救いきったあとに訪れる別れ――その旅立ちは、涙と祈り、そして「再会の約束」に包まれています。
朝の光は、家の中の空気まで磨くように透明だった。
母の頬は血色よく、父の背も軽やか。――二人の周りには、もう一点の“もや”もなかった。
赤いランドセルを背負った桜は、玄関で笑った。
「いってきます!」
母・美咲が台所から手を振り、父・大樹は新聞を持ったまま笑った。
桜は一歩外へ出てから、ふと立ち止まる。
振り返り、小さな声で呟いた。
「……ありがとう」
その言葉は風に溶け、家の中へ戻っていった。
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通学路は、いつもと同じ風景だった。
電柱、畑、角を曲がれば横断歩道。
行き交う人々は桜に気づかず、桜の存在だけが世界から少し浮いているように思えた。
(わたしだけが、ちがう世界にいるみたい……)
そう感じた瞬間、胸の奥に激しい痛みが走った。
足が止まり、空が滲む。
甲高いブレーキ音。
視界が揺れ、ランドセルが宙に跳ねた。
桜の体は地面に崩れ落ちた。
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気がつくと、桜は立っていた。
体に痛みはなく、呼吸も穏やか。
でも、地面には自分の小さな体が横たわり、その周りに人々が駆け寄っていた。
「桜!」
母が駆けてくる。
だが、その姿は桜の体をすり抜けた。
「おかあさん……」
声は届かない。
涙が頬を伝う。
けれど次の瞬間、視界の奥に光が広がった。
神社の桜の木。
満開の花の下に、虹の橋がかかっていた。
七色の光が川を渡り、天へと続いている。
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桜は歩き出した。
足元には花びらが敷かれ、橋の向こうから柔らかな光が射している。
神様が立ち、手を差し伸べていた。
「よくやったな、桜」
その声に胸が震える。
橋を渡りながら、桜は思い出した。
母の膝の上で読んだ絵本。
父と砂場で作ったケーキ。
美優と折った鶴。
涼や海翔と走った運動場。
夏祭りの花火。
赤いランドセルを背負った朝。
(……しあわせだった)
声にならない言葉が、虹に吸い込まれた。
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橋の真ん中で桜は立ち止まった。
振り返れば、泣き崩れる母と、支える父の姿。
その光景を胸に刻む。
「……いまは、べつべつの空を見上げていても――」
小さく呟いた。
「また、きっと会えるよね」
神様がそっと桜の手を握る。
二人は並んで、虹の橋を渡っていった。
桜は事故によって七年の命を終えました。
けれど、その犠牲は確かに両親を救い、家族の未来を守りました。
別れの最後に残した「また会える」という言葉は、悲しみの中に小さな光を灯しています。
物語はここで一区切りですが、桜の想いは永遠に枯れることなく残り続けます。




