~ただいま・おかえり~
不思議な同居が続いて早1か月
たった1か月の時間が僕の日常に変化していった
「いってきます」
「いってらっしゃーい」
当たり前のように仕事に行く前の一言が交わされる
(不思議な感覚だ・・・でもとても良い・・・)
僕はずっと独りで生きてきた
それが当たり前だったし、これからも変わらないと自分で思っていた。
でも、急な変化は訪れた
それは突然で理解不能なきっかけだったけれど、
僕にとって幸せを感じていた。
「なんか良いことでもあったんですか?」
職場で聞かれる事もあるぐらい顔に出ていたんだろうか?
「ちょっとだけね」
普段だったら絶対に言わない
けれど、今はそんな言葉も簡単に出てきてしまう
(帰ったら、双葉はまだいるんだろうか・・・)
毎日の業務に追われながらも、そんなことを考える毎日
もちろん、双葉がいない日もある
そんな日は、仕事しているのかなぁ?家に帰っているのかなぁ?と
思って夜を過ごした。
とある休日の事
「いってきまーすっ」
「いってらっしゃい」
いつもと立場が逆転をした一日
僕は休日の予定は決めない
なぜか、別段やることがないからだ
趣味もなければ、どこかに行きたいということもなく
唯一、ゲームをする事ぐらいしか休日にすることはない
僕はある意味、休日が嫌いな人間といってもいいだろう。
だからと言って、仕事をしたいわけではないんだけど・・・
そんなことを考えながらだらだらしていると、また今日という休日は終わりを告げる
かと思われた矢先
双葉からのLINE
「コンビニ寄って帰るんだけど、なにか買って帰る~?」
「んー、僕もタバコ切れたしコンビニ行きたいかも」
休日にタバコを吸いすぎてなくなるって・・・
これでも、双葉が居るようになって少しは抑えてるつもりなんだ・・・多分
「おっけー、じゃぁいつものコンビニに向かうから~」
「わかった、すぐ向かう 袋持っていくね」
「ありがと~、助かる!」
僕はマイバックなんて持っていなかった
双葉がいつの間にか持ってきてくれていたのだ
おじさんなんかよりずっとしっかり者である
外出用に着替えて、袋を持ち急いでコンビニへ迎えに行く
「お待たせ」
「遅ーい!」
「ごめん」
「嘘だよっ本気にしないでよ~」
軽いキャッチボールである
こんな事ですら幸せを感じてしまう
「なに食べたい?」
「なんか、今日はおでん食べたいかも~」
「そうしよう」
「はんぺん・ちくわに大根 卵も! めちゃくちゃ美味しそうっ」
熱心におでんの具を選ぶ君を見て微笑みが止まらない
「総二さんはなににするの?」
何も考えていなかった
君が楽しそうに選んだ事で、だいぶ選択肢が狭まったおかげで
いつもは(なんでもいいなぁ)と思う僕でも選ぶことができたのかもしれない
「ちくわぶと、卵 あとはコンニャクかな」
「取ってあげるね~」
そうして二人で選んだおでんを持って家路につく
「寒いねー早く家であったまりたーい」
「そうだね 早くしないと風邪ひいちゃうかも」
部屋はもちろん暖房がガンガンについており
「あったかーい、いつも暖房付いてるから助かるー」
「冷え性だから、寒いと耐えられないんだよ」
「あっ」
「どうしたの?」
「・・・ただいまっ」
若干の間で愛しさが増す
少しでも長くこの不思議な同居が続けばいいのに
本当にそう思った
「おかえり」
それからは二人で、おでんをつつきながら動画を見ていた
穏やかな時間に包まれる
「明日は仕事でちょっと遅くなるかも」
残業が確定している事をちゃんと双葉に伝えた
「そっかー、じゃぁ一回家に帰るかー・・・帰りたくはないけど・・・」
君がその言葉を発するたびに僕の心は締め付けられて
この1か月の事を思うたびに言いたいことはずっとあった
「総二さんと一緒に暮らしてたら、悩まなくていいんだけどな~ なんてっ」
不意打ちである
こんな事を言われてしまって、我慢し続けた僕も限界に達していた
「じゃぁ同棲する?」
軽々しく口にする事ではない
一緒に暮らすという事は、同じ時間を過ごさなければいk
「ホントッ!? 同棲する!」
同棲について語ろうと思ったが、双葉にはそんな理屈は必要がなかった
「今の家もいいけど、二人ではちょっと狭いからもう少し広いところがいいね」
「普通どれぐらいなんだろうね1LDKとか2LDKとかかなぁ」
「多分、私の荷物が結構あるから洋服掛ける場所が欲しいなぁ」
そこからはただひたすらに部屋の要望を二人で考えた
決まるまではこんな日々が続くのかな
「今までよりずっと一緒に入れるから、お迎えもいっぱい言えるねっ」
添えられた一言におじさん涙が出そうだったよ
沢山言おうと思った【ただいま・おかえり】
「あっ」
「ん?どうしたの?」
「タバコ買い忘れた・・・」
「雰囲気台無しだよ~も~!」
「いってらっしゃい」
「いってきます」
雰囲気は台無しで、外の寒さは相変わらずだったけれど
心はポカポカ温かかった