95話 スタジャンの青年
ノッポは、金曜日の午後 MCプロダクションに新しいドラマー 立花秀樹との顔合わせのために、
来ていた。
10分くらい待つと、上川に連れられスタジャンの
サラサラヘアーの一見、気の弱そうな小さな青年が入ってきた。
ノッポは、すくっと立ち、すぐに右手を差し出し、
「ノッポです、宜しく!」と握手を求めた。
立花は、おどおどした様子で、茨城訛りで、
「立花です〜」と答えた。
上川は「立花くんは、ボウヤをやっていて、スタジオで知り合ったんだ、いいバンドがドラマー探しているよっていったら、やってみたいって言ってね」
と説明する。
ノッポは自分のバンド〝イエローキャブ〟の紹介をした。ファンクを基本としたバンドで、酒癖が悪いなどもである。
立花は「はい、はい!」とかしこまっている。
ノッポは、ドラムの腕はともかく、純朴な青年が 大丈夫であろうか?と思っていた。
上川は、「まあ、メンバーとの相性もあるだろうし、どうだろう一回スタジオに入ったみては?」
とノッポの不安そうな表情を察したのか、次の
スケジュールをいれようとした。
ノッポは、「明日 土曜日の夜 19時からどう?
自由が丘のスタジオで」
立花は「はい!いきます」と即答した。
上川は、「じゃあ、音出しってことで」
と場を締めた。
ノッポは、金曜日に顔合わせが決まった時点で、
土曜日の夜にリハーサルを入れていた。
バンドの人数が多いと、スケジュールを合わせるのがいつも大変であったが、この時は、すでに先手を
打っていたのである。立花がどうあれであった。
土曜日 スタジオ
イエローキャブのメンバーは、19時をめやすに、
ポツリポツリと集合していた。
立花は、18時にはスタジオに来ていてノッポが18時半にきてから、徐々に紹介していった。
メンバーの第一印象は、皆、立花がおとなしそうなのを心配した。
スタジオに入り、立花は昨日もらった譜面とテープである程度は、予習してきていた。
ノッポが「じゃあ、とりあえず〝ラリアット〟やってみるか?」とそれぞれ用意ができたのを見計らって声をかける。
立花は、スティックを持ちカウントを取る。
豹変した!
「ワン!ツー!スリー!フォー!」
みな、カウントの声の大きさと勢いに飲まれてしまった!
慌てて皆ついていく。
立花のドラムは大音量である!
勢いが凄い!
唄に入ったところで、イエローキャブのメンバーは
思わず演奏を止めてしまった。
立花は気弱な青年に豹変してもどり、
「あの〜なんかまずかったべか?」と不安そうに聞いた。
ノッポは「いや、逆!凄くて、俺たちがテンパった」
そう言ってメンバーを見ると皆、本気の顔になっている。
ラリアットを再びはじめる。
ノッポはキャンディの玄を〝柔〟のドラムとすると、立花のドラムは〝剛〟だな?と感じていた。
ラリアットを演奏し終わり、メンバーは大盛り上がりである。
皆、立花の側に寄る。
その日のリハは大いに盛り上がり、立花の加入が決まった。
イエローキャブのメンバーは、例に漏れず 〝歓迎会〟と称して居酒屋になだれ込んだ。