88話 疑い
タブーのメンバーはスタジオに入り、遅れた リハーサルをおこなった。
タブーの〝JFK〟と言う曲は国家の闇に迫る内容だったが、その内容により迫力をあたえたのが、
丈の冤罪であった。
丈は悔しさをここぞとばかりに、ギターに、 ボーカルにぶつけた。
その迫力にスタジオ全体が息を飲んだ。
リハーサルも終わり、楽屋に戻った。
タブーのメンバーは、丈から昨日起きたことを聞いた。
長田は「そりゃ酷えな」と言い丈に同情した。
工藤は「女は怖い」そう言って、タバコに火をつけた。
ともかく、タブーはリハ不足であったものの3週目のスタートラインにつくことが、出来た。
午後になり本番が始まる時間となった。
風は、ギターを持ちスタジオへ向かった。
たまたま、エレベーターが開いていたので何気なく乗った。
そこには、白のレスポールを抱えた菜々が乗っていた。
風は一瞬たじろいだが、「乗ってもいい?」と菜々に聞いた。
菜々は「どうぞ」とにこやかに、微笑んだ。
2人を乗せたエレベーターの扉がしまる。
2人は、密室空間に10数秒いることになる。
菜々はエレベーター止まればいいのに、とぼんやり考えていた。
すると、ガチャン!と言う音がして、エレベーターの灯りが消える。
ガタン!エレベーターが本当に止まってしまった。
暫くして、非常用のほのかな灯りがつく。
菜々は、「どうしたの?」と風に頼るように聞く。
風は「故障ですかね?」そういって操作パネルを見る。
〝インターホン〟と言うボタンが見えたのでボタンを押してみる。
管理の人がでて「どうしました?」と聞いてきたので、故障か何かエレベーターが止まってしまったと伝えて、本番の撮影がもう始まる事も付け加えた。
管理の人は「ちょっと待っててください!今 エレベーター会社に連絡をとりますから!」と慌てて対応してくれた。
菜々は「密室になっちゃったね」と呟く、少し怯えている様子だ。
風は、気を紛らわすため、ギターの話をはじめた。
自分のギター〝チェリー〟がいかに素晴らしいかと。
菜々も、相槌は打つものの不安な表情である。
菜々は「このままでられないのかな?」と呟く。
風は「そんなことないよ!修理の人が来てくれるよ」と励ます。
菜々は「咲ちゃんだっけ?風くんの彼女、絶対疑うよね、密室に2人きりだから‥」
風は「多分、疑う、事故だけど」そう返す。
非常事態は男女の結びつきを深くするというが、
今がまさにそうだった。
菜々「何にもないのに、疑われるのは癪にさわるは、ねえ‥キスして」
風は「えっ本気でいってるの?」
菜々は「本気よ」と言って目を瞑る。
風は菜々の頬にキスをした。
菜々は「ふざけないで!本気のキスよ」
そう言って再び目をとじた。