118話 不自由
風の母、横山美枝子の手術は
無事終了したが、この後の経過は、予断の許されない状況であった。
頭に包帯を巻かれた、美枝子はタンカにのり、家族の前を通過した。
風も意識はないとわかってはいたが「母さん」と声をかけた。
美枝子は集中治療室に運ばれ、医師から説明のために父、和彦は呼ばれた。
妹の雲はただ泣いている。
暫くして、和彦がでてきて、皆に説明する。
「一命は取り留めたが、ここ数日はまだ安心できないらしい、仮に意識が戻ってもなんらかの障害がでるであろう、と言われた。」
和彦は、入院の準備のために、一旦病院を出る事になった。
風、雲、咲、咲の母は病院にのこり、備えた。
病院の待合室で、咲の母 上杉和美は、「昨日、不整脈が出たって、言ってたのよ、なんで無理にでも病院に連れてかなかったんだろう」と後悔を口にした。
父、和彦が戻ってきて、咲と咲の母には、一旦家に戻っていただいた。
待合室で、和彦は風に「何度も言うようだが、明後日のライブは必ず行けよ」と念を押した。
だが、風は、こんな状態の母の元を離れる訳にはいかない、そう決心していた。
翌日も意識は、戻らなかった。
ライブ当日
東京のライブハウス〝エッジマン〟では、ライブの用意が行われていた。
昨日急遽、目黒のスタジオで、キャンディのメンバーに〝オッさん〟さんを交えリハを行ったが、
散々な結果であった。
2.3曲ならともかく、10数曲である。
オッさんは、楽屋でも、ウォークマンで必死に聞いていたが、流石に困っていた。
咲は、飲み物を買おうと、〝エッジマン〟の地下から上がる階段を登ると、逆光の中に人影があった。
眩しい逆光の光を遮り見ると、
風が立っていた。
咲は「風!来てくれたんだ!」と風に抱きつく。
風は「病院でさ、うたた寝してたら、夢に母さんが出て来て、俺を起こして、〝ライブでしょ!おにぎり作ったから〟って」
風は涙ぐみながら、咲と一緒に、〝エッジマン〟の階段を降りて皆のもとへ向かった。




