116話 電話
翌日、キャンディのメンバーは、大阪公演を終え、車がまだ返ってこなかったので、石黒と共に新幹線で帰路についた。
ただニイは、名古屋で降り、上川の元へむかった。
風も、咲もトラブルはあったものの、ライブの内容に満足していた。
良は、静かにしないといけない状況になると、騒ぎたくなるたちであったため、いたずらが際限ない。
車内販売のお姉さんにビールを注文したりである。
当然、販売しているお姉さんにかるくあしらわれ、皆に引かれるなどである。
ただ、楽しさを隠せない〝新高校生〟達であった。
そんな中、車内に呼び出し放送がかかる。
〝東京からお越しの、横山 風様、車内電話がかかってきております、乗務員までお知らせください〟
との内容だった。
風はキョトンとした。
何故自分に新幹線に電話がかかってくるか、わからなかった。
石黒に案内され、乗務員を探した。
石黒に促され、風は、乗務員に申し出て、電話まで案内してもらった。
電話の相手は、父、横山和彦であった。
「親父どうしたの?どうして、電話番号わかったの?」と聞いたが、和彦は開口一番に、
「とにかく落ち着いて聞いてくれ‥母さんが倒れた
今、救急車で〝千葉脳神経外科〟にきている
手術中だ、どうも脳梗塞らしい、もしものこともあるから、東京から真っ直ぐ病院に向かってくれ
稲毛駅から、タクシーにのれば着けるだろう
咲ちゃんは、側にいるか?」
そこまで聞いて、風は受話器を持ったまま座り込んでしまった。
「いる」
一言言うのが精一杯だった。
「咲ちゃんについて来てもらえ、お前一人じゃ、不安だ わかったな 風」
しばらく沈黙のあと、風は〝わかった〟とだけ伝え
電話を切った。
石黒に説明を求められるが、うまく伝わらない。
咲のいる、席まで二人は戻り、咲の通訳により、
ようやく石黒は事態を把握した。
石黒は、「東京から、快速ですぐに向かって!
楽器はこっちでなんとかするから!2日後の
〝東京〟も危ないわね‥わかった!オッさんさんに
全曲コピーさせとくわ!バンドサバイバルの借りがあるんだから、嫌とは言わせないわ!」
普段穏やかな石黒だが、いざとなると上川ばりの
やりくりを見せた。
東京に着くと、皆の心配を背に、風と咲は千葉行きの快速へ走った。




