103話 弟子の付き添い
ノッポは青山透、通称〝あおとお〟さんのレコーディング現場にいきたくて、仕方なかった。
立花秀樹、〝イエローキャブ〟の新ドラマーに、付き添いでいってもいいか?打診していた。
秀樹は、リハのテープを師匠〝あおとお〟さんに聞いてもらい、許可をもらった。
2月末の木曜日、ノッポは、秀樹のアパートまでいき、秀樹が〝あおとお〟さんに借りてもらっている駐車場から、あおとおさんの機材車で、スタジオまで出発した。
今日は都心のレコード会社の中にあるスタジオで
2曲のリズム録りだった。
13時スタートだったので11時には、スタジオに着いていた。秀樹は、バンから大量のドラムセットを
降ろし、転がせるように積み上げる。
手早く支度する秀樹にノッポは「これ、いつも一人でやってるの⁈」と驚いた。
秀樹は「ここはマシだっぺ、車さ駐禁きられねえから、六本木なんか、すぐ切符切られて悲惨だっぺよ」
そう言ってスイスイドラムセットを運ぶ。
幾つかあるスタジオの一つに「おはようございます!」と元気よく挨拶し、入っていく。
ノッポも続けて挨拶し、続く。
ギタリストのボウヤは先着して、すでにセッティングを始めていた。
秀樹は、冗談まじりに顔見知りのボウヤに挨拶し、
負けじとセッティングを急ぐ。
手際よく、ドラムセットが組み上がる。
ノッポは、秀樹に言われるがまま、手伝うが、余り役に立っていないようである。
秀樹は、ドラムの椅子に座り〝チューニング〟を始める。
一通り終わると、軽くリズムを刻む。
そこに、セッティングの終わったギタリストの弟子がカッティングを、被せてきた。
軽いジャムセッションである。
そうこうしているうちに、師匠〝あおとお〟さんがスタジオ入りした。秀樹もノッポも直立不動で挨拶する。
〝あおとお〟さんは、ノッポに「初めまして!ノッポくん?聞いたよテープ、いい声してるね、秀樹宜しくね!」と握手を求めた。
ノッポは天下の〝あおとお〟さんに緊張したが
汗をかいた手をジーンズで拭き応えた。
そのうち、ベースの〝マック〟さんがやってくる。
サウンドチェックが徐々に始まる。
今日のレコーディングは売り出し中の若手俳優
江原裕二のデビューシングルだった。
準備は整ったが、仮歌を歌うボーカリストがこない。
インペグ屋の新人がブッキングミスをしたようだ。
スタジオでは、揉めるような雰囲気がでだした。
いたたまれなかった、〝あおとお〟さんは、
ノッポに、〝歌えるか?〟と聞いた。
ノッポは迷わず、「一回聴かせてもらえれば、歌えます!」と答えた。
〝あおとお〟さんは「ここに、ボーカリストいるけどやらせてみる?」とディレクターに聞いた。
困っていたディレクターは藁にも縋る思いで頼んだ。
ノッポはスタジオでデモを一回聞かせてもらい、 プロ中のプロのメンバーの中に飛び込んだ。
テイクワン
ノッポは歌い出しで咳き込んでしまったが、すぐに巻き返した。
大した度胸である。
レコーディングは順調に進み、ノッポも役目を果たして無事終了した。
ノッポは、ギャラで2万円受け取った。
さらに、ディレクターから電話番号を聞かれた。
もともと、売れる素養のあるものは、こいいう機会にチャンスを掴むものである。
ノッポは、それに当てはまる資格が充分にあった。




