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優しい嘘  作者: 紀本彼方
7/8

6 嘘つきの語る回想4

「あっ!」

 ユウキが唐突に叫び声を上げた。

 疲れとわけのわからない恥ずかしさでうつむいていた僕はその声で顔を上げた。

「あーっ!」

 僕も釣られて声を上げた。道の向こうに砂浜とかすかな青が見えたからだ。

 僕らは疲れも忘れ走り出した。どこにそんな力が残っていたのだろうっていうほどの速さ。駆けっこをするかのように二人で走り出し、砂浜に着くと、砂にまみれるのも関係なく突っ伏した。

「なんとかなるもんだね」

 切れ切れの息の合間にユウキが笑いながらそうこぼした。

 潮の香りと、波の音。砂の感触は間違いなく海だった。風が心地よい。人は誰もいなかったがそれが逆に気持ちよかった。

 まだ薄暗い。日の出には間に合った。日の出はいつだろう。ケータイの電池は切れているし、時計がないから時間がわからない。 そもそも、日の出が何時なのかも検討がつかない。

 まぁ、いいさ。待っていれば日は必ず昇る。

僕らは砂浜で並んで寝転がって朝日を待った。

 海に着いただけでこの達成感。ご褒美の水平線から上る太陽を見たらどれだけ感動できるだろう。

「楽しみだな、朝日」

「うん」

「途中どうなるかと思ったけど、来てよかった。誘ってくれてありがとな」

 こんなに自然に礼を言えたのは初めてだった。

 その直後。

 鼻先に冷たさを感じた。

 次は左手。

 それを疑問に思う前に雷が鳴り響き、それに呼ばれるようにどしゃ降りの雨が降ってきた。

 完全に荒れ狂う海。もう朝日どころじゃない。

 言葉を失い、顔を見合わせた僕ら。互いの呆然とした顔を見ながら、全く同じタイミングで笑い転げた。

 結局、朝日は見れなかったけれど、一番最初にユウキが言ったとおり忘れられない思い出になった。

 擦り傷だらけになって、激しい雨に降られ、結局朝日は見れず、次の日に二人して風邪を引いてしまったけど、これは僕にとって最高に楽しい思い出になった。


 今にして思えば、それは僕らにとって最後の楽しい記憶だったからかもしれない


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