獄死館の惨劇
1人、また1人と消えていく……。
広い板張りの上で、俺は静かに目を閉じた。動悸が激しくなる。鼓膜の横で、どっ、どっ、と心臓の音が早鐘を打っているのが分かった。気がつくと俺は泣いていた。止めどなく溢れる涙が、顎を伝って、ポタポタと滴り落ちた。
どうしてこんなことになってしまったのか……思い出せない。俺は頭を振った。彼女の悲鳴が、彼の奇声が、未だ耳にこびり付いて離れない。自分がこの場に立っていられるのが不思議なくらいだった。分かっているのは、こうなった以上、全員は生き残れないということだ。弱い奴から消えていく。油断した奴から消えていく。たとえ強かったって、隙がなかったって、運が悪ければ容赦無く消えていく……。俺が消されてもおかしくなったのだ。そう思うと、今更ながら冷や汗が出て来た。
この館に集まった時は……まだ大勢が残っていたのだ!
それがどうだろうか。見る影も無い。数十人が犇めき合い、笑顔が弾けていたこの部屋も、今や飛び交う怒号に掻き消されてしまった。残っているのは俺も含め、後2人か、3人か。至るところに滲んだ血や汗や涙が、此の場所で起きた凄惨な事件を物語っていた。
のちに警察OBは語る。「これほど凄まじいモノは見たことがない」と。増え続ける犠牲者の数に、警察関係者の顔はどんどん険しくなり、医者は何度も天を仰いだ。新聞やTVでも大々的に報じられたので、そのセンセーショナルな内容が未だ記憶に新しい人も少なくないだろう。
のちに『獄死館の惨劇』と呼ばれた、この事件。
ゆっくりと目を開け、俺は右手に持った刀を見つめた。この刀で、今日は一体、何人打ち倒しただろうか。分からない。今はまだ、何も考えたくはない。もう一度頭を振ると、俺は板張りの上を歩き、それからゆっくりと表彰台に上った。館全体にアナウンスが響き渡る。
『それでは全国高校生剣道大会、個人の部、表彰です。見事優勝に輝いたのは……』