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おつきさま  作者: パステル
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第九話 質も量も

 机に向かってアイディアノートを開き、羽根ペンを持つ。

 しかしペン先は動かず、紙にインクが滲んで広がっていった。


「はあぁ…」


 私は途方に暮れていた。

 代替案は浮かんでも、本来の目的に沿ったものは何も浮かばない。


 毎度ながら、スペルビア様は無理難題を投げてくる。

 具体例を挙げるなら、『物理攻撃は初撃確実無効』だとか、『人間程度の物理攻撃は摩耗無しで無効化』は特にそうだ。

 あの時も、知恵熱が出るくらい試行錯誤を重ね、多くの先輩に協力をして頂き、ようやくできた努力の結晶が、及第点だった。


 だとしても、今回の『魔王の魔法を数発耐えられる装備品』は別格すぎる。

 なぜかと言えば、理由は明白で私は魔王どころか普通の魔族の攻撃魔法すら見た事がない。


 グーラくんへ前に本気の魔法を一度見てみたいと言ったら、「ルナちゃんは殺したくないから嫌だ」と返ってきたきり、手品のような一切害の無い魔法しか見せてくれなくなったのだ。

 スペルビア様に至っては、範囲が狭ければ代償なしで数分は時を止められるとの話だし、素手で両刃剣の先端を指で折る実力を持ち合わせている。

 それでも、今回の依頼を受けた際にはチキンな私でも、流石にお手本の魔法を見せて欲しいとお願いした。

 然し、修練場へ一緒に途中まで行くことはできたが、今度は私が騎士団の顔見知りの先輩に捕まり、スペルビア様も交えて騎士団長様直々に話し合いが発展して、新兵さん達の臨時指揮官となってしまった。

 それ以降、タイミングが合わずにスペルビア様とは会っていないので、魔法を見る機会は流れてしまった。


 魔王の一撃は平均的な魔族の攻撃魔法を十秒間ノーガードで耐える事と同意義と言われているらしいが、相手の魔王によって得意不得意も当然ある為まちまちらしいし、そもそもがその噂自体が事実かどうかも怪しい。

 だから、その()()()の魔法を()()耐えると言う、不確定要素の塊に挑むには、あまりにも手札が少ないのだ。



 …この城に来て間もない頃。


 スペルビア様に慧眼で鑑定して頂いた結果では、私自身に宿る付与魔法(エンチャント)という唯一の力は、この世界に存在する魔力という大気中の物質に感化されて生まれた、偶然の産物。

 更に詳しく言ってしまえば、元の世界から召喚されて一緒に来た勇者と聖女ーー城ヶ崎と西野さんの魔力にも多少は影響され、魔族になっても聖属性に寄った位置にある付与魔法(エンチャント)を使えるのではないか、という事らしい。


 要するに、私は災難に見舞われながらも運が良かっただけで、今も生きているのだ。

 昔からの事で忘れていたが、私は悪運が強い。


 周囲にいた人間達曰く、それだけ私が不幸を引き寄せていたらしいが、あながち的を射ている意見だったのかもしれない。



 ーーコンコンッ。


 悪い方向へ考え込んでいた思考が、ノックの音で踏み留まる。


「はーい」

「休憩中に失礼致します。スペルビア様から…おや、お仕事を邪魔して仕舞いましたか」

「ブルームさん?」


 丁寧な所作で頭を下げ謝罪を述べたのは、執事長でもあり月明かりも仕切っている、小学生サイズの白い肌に漆黒のカールした毛並みが可愛らしい羊のブルームさんだった。


「丁度行き詰まっていたので大丈夫です」

「やはりそうでしたか」

「え?」

「「「失礼致します」」」


 不思議そうにする私を他所に、三人の使用人の先輩…よく見れば月明かり創設メンバーのうち三人が綺麗な所作でカーテシーをする。


「主君より『研究の為ならこの者達を好きに使え』との事です」



 本当に私は悪運が強い。



 〜〜〜〜〜



 折角の御厚意だし、遠回りだが地道に、別のサンプルとしてデータを取る事にした。



「お願いしまーすッ!!」

「「「やっぱり無理ですーッ!!」」」

「全力で十秒ピッタリお願いします!!」

「「「だから無理ですッ!!」」」


 …埒があかないなぁ。

 構えていた大楯の内側で小さく溜め息を吐き、有志で集まって頂いた使用人の先輩に近づいて行く。


「調整とか無しで、ドカンと何十発も撃って欲しいのですが…」

「私の拳はルナ様を守る為の力ですので」

「私は頭脳担当だと自負していますが、魔法でしたら私達はからっきしですので」

「だいたいが、ルナ様に攻撃を当てろだなんて無理な話です」


 でも、それじゃあこの大楯を製作した意味が…なんて、考えていると。


「騒がしい者が居ると思えば、決闘から逃げて引き籠もっている人間じゃないか」


 魔道士団の新緑のローブを羽織った男女二人組に絡まれた。


「ちょっと、クラウド…」

「何だよ、ルーツだって団長の意見に頷いてただろ?」

「最後に不干渉って言われたわ」

「魔法も使えないウサギ一匹にビビってんのか?」

「…私は、止めたから」

「あっそ。じゃあ手柄は俺の総取りだな!」


 ぼっーと、よくわからない漫才もどきを見ているとーー


「拾えよ!」


 ーー手袋を投げ当てられた。


「こんな大勢の前でも逃げんのか?」


 足元を見ると、白い手袋が落ちていたので仕方なく拾って、比較的まともそうな女性の方に返すと、男性は口角を上げ、女性には微妙そうな表情をされた。


 拾ってから思い出した朧げな記憶だが、魔族領の基礎知識として、手袋を投げて相手が拾うという行為は、決闘の開始を意味していた気がする。

 でも、この流れを断ろうが、無教養な私には適応されないだろうし、血の気の多い奴と闘ってもメリットが…いや、あるな…?


「俺は今からでもいいけどな。まぁどうせ代理人を用意するなら、よく見極める事だな」


 殺気立つ先輩三名方をそっと手で制すと、一歩前へ出て男性の魔道士団員を視線で射抜く。


「でしたら、今すぐにでも始めましょう」

「やっぱり逃げ…ぇ?」

「偶然にもスペルビア様より、ブルーム様を通して修練場の使用許可が私へ降りています。なので、大楯を持った貧弱な一匹のウサギである私を、魔法で攻撃して一分間以内に倒せたら貴方様の勝利、私が一分間耐え切れれば私の勝利で如何でしょうか?」


 急に饒舌になった私を、魔道士団員の二人組はおかしなモノを見るような視線を向けた後、男性は怒り喚き、女性は眉間に皺を寄せて溜息を吐く。


 だが、気分が昂揚している私には、その言葉の数々は届かない。


 魔道士団と名乗るのだから、それはそれは魔法の腕は素晴らしい威力と精密さを兼ね備えているのだろう。

 自ら魔法で成り上がったと自己紹介をしてくるような輩の一人だし、一分間もあれば十分なサンプルデータとなり得る。


「期待していますから、役立つデータをくださいね?」

最近二話投稿が増えてますが、多分特例です。

お読み頂きありがとうございます!

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