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おつきさま  作者: パステル
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第三話 ゆるふわ魔法世界

 声の主は、まるで長椅子にその身を預けるようにして、横になってシャクシャクと音を立て、紫から黄色にグラデーションの掛かった果実を齧っていた。


「人間は魔物に飽き足らず、魔族の子どもですら殺生すると言うのに」


 その姿は、後頭部から前頭部へと自ら光を放つようなのに漆黒に染まった、矛盾がぶつかり合う山羊のようなツノを生やした幼女だった。


「挙句、同族殺しまでするとは…見下げたヤツらよのう…」


 しかし、その長いキラキラと光る乳白色の艶やかな髪は重力のままに下へと垂れ下がり、目を凝らして見れば、その零れ落ちてしまいそうなほど大きな深紅の瞳も、蛇のような縦割れの黒い眼が中央にあり、如何にも強者たる覇気を放っていた。


「これでは古き盟約の友も、子孫の成れの果てに呆れ返ってとうに見放しただろうよ」


 ポタポタと赤い血のような果汁が、先ほどまで私へ敵意を向けていた群衆に滴り落ちる。

 それでも、誰も動かない。

 正しくは…彼女の気にあてられ、動けない。


 だが彼女は気付かないのか、はたまた気付いていないふりをしているのか。

 空中を泳ぐようにして、地面から5センチほど浮遊した状態で、顔を近付けてきた。


「して、ソナタは儂ら魔族をどう思う?」

「……私に言ってる、ですか…?」


 この距離感で私以外に話し掛けてたらおかしいだろとは思いつつ、念の為に確認してみる。

 そうすれば、幼女様の発言の意味を汲み取れると思って。


「そうに決まっとるじゃろう。この場にソナタ以上の話し掛ける価値ある存在などありはせぬ」


 はいオワター。

 マッチ一本ぐらいの火に薪を焚べて可燃剤ぶち込んだよ、この幼女様。

 視界の端に爵位もプライドも高そうな宰相の男が真っ赤になって血管も浮き出ている表情が見えちゃったよぉ。


「貴様ァッ!!この私を誰だと思っているッ!!」


 予想通り、宰相の男は怒鳴りつけてきながら無駄なオプションで細長い剣を振りかざして私と幼女様を目掛けて、剣先を振り下ろしたのが見えた。


 私は重くなってきた瞼を閉じ、異世界でもご健在な走馬灯を見る…けど。


 孤独に押し潰されそうになっていた時も支えてくれた、いつの間にか逞しくなっていた腕も。

 たった一度の偽善をキッカケに、真っ暗な人生を照らし広げてくれた、絶え間なく輝く笑顔も。


 …どうしてか、思い出してしまうんだ。


 最後くらいあの二人はーー城ヶ崎と西野さんじゃなくて、ショウとアンズちゃんって…呼んであげれば良かったと思うのが、心残りなのかな…?


 …不思議と身体が痛みから解放され、抱き上げられた感覚になってる。

 自覚が無いだけで、もう終わったのかな……


 でも、最後は優しい魔族?の幼女様に出会えたのに、巻き込んじゃった。

 だからこそ、私はーー


「ーーまだ、死にたくないなぁ…」

「それでよい」

「んっ?…ふぉひッ!!?」


 クツクツと笑いを堪える幼女様の御尊顔がすぐ横に!?

 というかなに!この状況は?!

 剣先が触れる寸前で、止まってる…?


「こんな玩具で儂を殺そうとは、人間とは浅はかに退化したものよ」


 幼女様が人差し指と親指で剣先を摘み捻ると、破片はパキンッと音を立てて空中で動きを止めた。


「エッ、あっ……時間止まってるぅ」

「なんじゃ?こんなにプリチーな幼女に抱擁をかまされて驚き過ぎたのか」

「…幼女の自覚、あったんですね…」

「無論。どこからどう見ようとも愛くるしい姿じゃろう?」


 小さな舌先を出してウインクを飛ばす幼女様のあざと可愛い表情、いただきました!

 モブ顔がやれば放送事故ではすまないような仕草も、この御方がやれば全ての生命の尊みに刺さると思う。


「アッー、尊いです、ずっと見続けていられる」

「そうかそうか、ソナタは素直で愛いやつよのう…」

「ヒョェアッ」


 頭くっつけてぐりぐりしてもらえるとか、有料課金コンテンツルートか?!

 幼女様は神かな??


「もう儂は我慢の限界じゃ!」


 幼女様は私を片腕で抱き上げたまま高く飛び上がり、空中の一部を歪ませ、叫ぶ。


「来い、執事!」


 ーーズモモモッ…!!



「めぇ〜!」


 後ろ足で立ち、ペコリとこちらへ向かってお辞儀をする、黒い羊が現れた…


「儂は屋敷に帰ってこの娘を育てるっ!汚れ仕事は適度に任せた」

「めぇ〜?」

「育てると言ったら育てるんじゃっ!」

「……めぇ?」

「仕事もするし、おやつも…へ、減らすのじゃッ!」

「…めぇ〜」

「本当かっ!それじゃあ儂らは先に帰る!」

「えっ、ちょまーー」


 まだ心の準備が出来てないし、城ヶ崎と西野さんの安否も確認したいんですが?!!


 しかしながら、静止する声も心の声も虚しく、身体ごと空間の歪みに吸い込まれていく。


「ーーアッ」



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