第十六話 言うは容易く
なんだか執筆してたら楽しかったので投稿しました!
ちょっと今回は特に読みづらい箇所があります。
時間が止まったように静まり返る面々。
そして…誰かしらは異議を唱えると思い、敢えて待っていると。
「私ども…商品の意思は、関係が無いのでしょうか?」
この状況下で、一番情報量の少ないであろうアンズちゃんから、意外にも棘のある言葉が飛んできた。
「発言を許可した覚えはありませんが…特例としてお応えしましょう」
アンズちゃんには勿論、ショウにも語り尽くせない苦悩や葛藤があるのだろう。
…だがしかし。
それは相手方の言い分であり、一々取り合っていては時間が幾らあっても本題が進まない。
「先ず、魔族領への侵略者であり罪人である貴方達には、本来ならば人権も黙秘権も拒否権も、魔族領にいる限り、ある筈がありません」
何名かの先輩方の息を呑む音が聞こえるが、円滑に物事を進めたいので、今回は割愛させて頂く。
「次に、先程は『幼い』や、『罪が軽くなる』等に近しい発言をしましたが、それはあくまで私と同郷の者であり、過去に恩義を感じた、私個人の感情による温情以外のなにものでもありませんので、最終的な御決断はスペルビア様の御意志によるものです。そこの所は勘違いなされぬよう、お願い致します」
この場にいる者、全員を見渡した上で、お前らも自分は被害者だの特別とか例外だとか勘違いすんじゃねぇぞ?と、意味を込めた視線を先輩方にも送れば、納得して頂いたような気がするので、話を続ける。
「以上の事を踏まえた上で…現在城主で在られるスペルビア様は居らず、次にスペルビア様より決定権を託されている唯一の家臣であり執事のブルーム様も不在の中、より重大な事柄を皆様は、忘れてはいませんか?」
思案顔の騎士団の先輩方、未だに反抗的な視線を向けてくる魔道士団の先輩方、周囲へ鋭利な敵意を放ち出すノース様、私がこの後に何を始め出すか一人察し小さく溜め息を吐いたサウス様、不安げに私を見るイースト様方に加え、呆然と以前までとはまるで違う人間のように物事を仕切っている私を見つめるショウとアンズちゃん…
言葉足らずで、特にショウとアンズちゃんには難しかったかな?
「それでは、正解の御方に登場して頂きましょう」
視線を廊下の曲がり角へ向けると、自然と群衆が開けて道ができた。
「…おい」
その姿を見て皆、多種多様な反応を見せる。
そして、手首が鎖で繋がっている片方からは極度の警戒心を感じ、もう片方からは身体を強張らせた震えが伝わってきて、つい小さく笑ってしまう。
「俺様を見せ物にした挙句、笑うとはなァ?」
「ハイ、只今空腹で苛立っているグーラ様でーす!ぱちぱちぱち〜!」
私のお巫山戯の過ぎた効果音と共に、腹ペコなグーラ様が私へ向かって真っ直ぐと歩いてきて、半歩手前で立ち止まり私の両耳を片手で握る。
だが、声をかける者は私以外に誰もいない。
「肝が据わった奴は嫌いじゃねぇが…ただの考え無しならこの場で喰らうからな」
「まぁまぁ、私だって其処らにいるただのモブ…言うなれば誰かの人生の脇役です。もし今命が尽きるというのなら、舞台での役目が終わった時でしょう」
瞬間、ライトグレーの瞳が揺れたが、ここは気付かないフリをする。
「今回ばかりは『進行係』という大役なので例外ですが…主軸の者以外は反応などせずに場の雰囲気に流された方が、物語は円滑に進みますでしょう?」
「…つまらねえ反応だな」
「はい。私はあくまで引き立て役に過ぎませんから」
なんだかいつにも増して不機嫌の振れ幅がすごいのだが…恐らく、待機しているのを知っている事で機嫌を更に損ねたようだ。
荒れたら言葉通り身を挺してでも止めるけど…大丈夫かな?
「では、いよいよ本題に移る前に…ひとつだけ、皆様に聞いて頂きたい言葉があります」
急に語り出した私へ視線がグサグサと刺さる。
「異世界ーー私の故郷だった場所では『ピンチは最高のチャンス』という言葉がありました」
まぁ、前世で私が自分自身に言い聞かせていた言葉なんですけどね。
…予想通り、沢山の不信感が降り掛かってくる。
正直いうと私一人で背負えるプレッシャーの量ではないが…これでいい。
「先輩方は、スペルビア様の御友人に踊り食いされたいですか?」
「あ゛?絞められたいのか?」
「どちらかと言えば、雑巾絞りなのでは?」
とびっきり無邪気で純粋そうな笑顔を作り、ゆっくりと爆弾サイズの疑問を投げかけると、握られている両耳が雑巾でも絞るようにギリギリと捻られる。
破茶滅茶に痛いが、作り笑顔なら数少ない得意技とも言えるから今は我慢。
「グーラ様は美食家ですから、きっと美味しい部位は骨の髄までいただいて、食い出がないモノは肥えるまで育てて頂けるかもしれないですね?」
「勝手に俺様の心象心理を悪くするんじゃねえ…だが、魔物狩りの撒き餌にはなるかもなァ?」
私の言葉を聞き、より現実味のある答えを当人にしてもらう事で、最悪の未来がやっと全員へ行き渡ったのだろう。
先輩方が一斉に首を横にブンブンと振る。
「では、皆様でその未来を変えてみたいとは思いませんか?」
今度は怯えながらも、縦に首を振る先輩方。
「それなら答えは単純明快。立場や身分の差など忘れて、御自身の得意分野でいつも通り、力を発揮致しましょう!」
概ねの反応は乏しいが、私は自分にしかできない事をやる。
私の不得意とする分野は、三名の先輩にある程度知識を詰め込んで頂いて丸投げだ。
「思い立ったが吉日です。先ずはグーラ様。そして、ノース様、サウス様、イースト様。ショウとアンズちゃんもこの後直ぐに、打ち合わせを開始しましょう」
物語の脇役でも、名助演からただの一般参加者にまで、多岐に分かれているのだから。
*****
ガチャガチャと手枷を私の手首から一旦外し畑の柵に繋ぎ直せば、漸く両手が楽になる。
そう、此処は大部屋二つを隔てる壁をぶち抜いて、とても広い畑に改築して頂いた、私の野草畑だ!
まぁ今は、薬効のある野草をあーだこーだして魔力が放出しなくとも作れる、回復薬の原材料が半数を占めているけど。
因みにその原材料というのは、その名もズバリ薬草である!
ありとあらゆる薬になる草だから、薬草らしい。
「フフッ、フフフフッ…!!」
いやぁ…初めて薬草の種類を聞いた時の、胸の高鳴りを返して欲しいよねぇ…
このお城にやって来て、書物庫に入って直ぐに植物図鑑を探した。
そして目次を開いて早々、地球にもあった野草に紛れてファンタジーな植物代表格の『薬草』の二文字が大きく記されていて、詳細も調べずに本棚へ植物図鑑を戻したら、いつもより生き生きとした瞳でお城中を駆け回って、博識なスペルビア様を探していたら数分足らずで見つかった。
スペルビア様に『薬草は薬になる草じゃぞ?』って、さも当たり前のように言われて、ブルーム様、ノース様、サウス様、イースト様、商業ギルドでポーションを販売している役員さんに、ポーション工房の職人さんにまで聞いて、答えは同じだし。
挙げ句の果てには、驚愕で呆然とした私を使用人の先輩のお子さん達に指を指されてケラケラと笑われてたからね。
まあ?だからこそ研究にも熱が入ったし、功を転じて今から役に立つんだけど。
『薬草って、ポーションにしなきゃ苦いし、食べたくないから知らない』
『だから!誰も疑問にすら思っていないから、私が調べてるの!』
『そっかぁ。ところで、今日のお菓子のおかわりは?』
『見ての通り無いよ。というか、邪魔するなら出てってよ〜!』
でも、書物庫には文献もなく、薬草は常識だから専門家もいないで、ただただムキになっていた時は本当は、心が折れそうになってた。
『ルナちゃんが意地悪になってる〜!』
『適切な対応だよ!テーブルに山盛りのお菓子をおかわりとか、尋常じゃない程身体に負担を掛けることになるよ?!』
『えぇー!』
可能性はあっても、必ずしも報われる訳ではないのかと…昔に戻りかけていた。
『お金が無いからって、雑草まで食べるなんて!』
お母さんと作った思い出を否定しないで。
『勉学に励んだ理由が、お菓子作りねぇ…』
夢の為に頑張れって言われたから、私は頑張ったのに。
『コレは良い機会だし、医療機関に関する仕事に就けるかもしれないんだよ?』
誰かが決めた不確定要素の為に、過去の努力を棒に振れって言うんだ。
『優しさから言ってやっていたのに、本当に残念だ』
言葉の意味のまま、血反吐を吐いて四季が回ろうと机に齧り付いて知識を詰め込んで、目の前の事に精一杯だった。
それでも希望を捨てずに、夢を否定する声を薙ぎ倒し、手に入れたのはーー
『必ずなんて、無いんだッ…!』
ーー形なきモノだけ。
だからこそ…グーラくんの興味のなさそうな一言で、踏み止まれた。
『…じゃあさ、薬草を使ったお菓子を食べたい』
『はいは…へ?』
『健康に良いお菓子、ルナちゃんなら作れる?』
『それは…』
あの時は結局、答えられずに有耶無耶になってしまったけど。
今なら、期待に応えられるよ。
お読み頂きありがとうございます!




