第十二話 ヨウリョウ
スペルビア様が私の為に開催して下さった、身内だけのパーリーナイト。
メンバーはそこにグーラくんと、ブルーム様に、数多の先輩方の中でも特に仲の良い同性の先輩方三名を加えた計七名で、真夜中を超えても、食べて飲んで騒ぎ明かした。
随分と私も楽しんで、大樽一つに届かないくらいで意識が飛んでいる…なんて事はなく、最後までダウンせずにブルーム様と後片付けもきちんとこなせた。
まぁ楽しんでたのは事実だけど。
なお、平等にジャンケンで負けた私は例の如く、グーラくんの虹色のキラキラ処理班だった。ちくせう。
魔王二名と会場の飾り付けの片付けはブルーム様に任させて頂いた。
私が酔っ払った先輩三名を一人ずつ部屋まで担いで運び終えて、会場だった謁見の間へ戻ろうとすると、丁度廊下でブルーム様が、スペルビア様が私に用意して下さったエプロンワンピースを運んできて下さっている最中だった。
なので私はドア開け係になり、しっかりとコンソールに服と小物を飾り、ベッドに倒れ込むようにして寝た。
*****
ーーコンコンコンッ!
「……んぬぅ…はぃ、今行きます…」
眠気に争いながら瞼を擦り手探りで歩いて、微かに聞こえたノックに声を返してドアを開いた。
「「「失礼致します」」」
「ぅぁ、おはようございます…?」
駄目だ…意識はしっかりとあるのに、頭がぽやぽやする…
「本日よりルナ様の指導を仰せつかった、体術担当のノースと申します」
「同じく、座学担当のサウスと申します」
「同じく、サバイバル担当のイーストと申します」
「ごめんなさいちょっと色々待って下さい?」
猛烈な眠気が一瞬でぶっ飛んでいったわ。
「あの、なぜ故に…?」
「「「改めて、よろしくお願い致します」」」
「…よろしくお願いします」
パーリーナイトでも一緒だった先輩三名ーーノースさん、サウスさん、イーストさん達から順に名乗られカーテシーをされたので、ついこちらもそれに合わせて頭を下げる。
そしてふと、思考がある一点で止まる。
「サバイバル担当ってなんですか?」
「体術、座学に分類されないモノの中でも最低限学んで頂きたいと、スペルビア様が詰め込んだ教本の知識の総称ということになっています」
要するに、最強魔王スペックの最低限を凡人が出来るようになれ、という事か…
いやっ!まだ希望はある…!
だいぶ希望は薄いが、どこかに抜け穴があるはず…!
「それは全て決定事項でしょうか?」
「はい。スペルビア様が今朝方に思い付かれたそうです」
「おぅふ…!」
「「「ルナ様っ?!」」」
膝から崩れ落ちた私にオロオロとしている辺り、此処では当たり前の価値観であって、意識革命を行うべきは私の脳内だ…
どんなに天才とは程遠く、努力も怠る私でも、前の人生の中で学んだ事は、ひとつだけある。
現実を悲観して手を差し伸べられるのを待つ者より、どう打開するか考え出した者の方が、何倍も賢く有意義に生きれる。
それだけはどれだけ時間が経ち、世界線を超えた異世界でも、変わることはないと信じ続けている。
「すみません。ところで、先輩方のどなたかにお願いしたいのですがーー」
自分すら疑う私に残された、最後の希望だからこそ…
*****
「『穢れなき聖なる力よ』ッ!……はぁ…!」
「クラウドは相変わらずの様ですね」
秋も終わりとばかりに肌寒い風が吹き荒ぶ頃。
井戸の水を汲んでは、純度の高い水に変えて桶に継ぎ足す愚かな弟分を見て、小さく息を吐いた。
「なんで、魔道士の俺が…!」
「あれだけ好き勝手をして、魔道士団そのもの自体が解体されなかっただけマシでしょう」
「あっ〜!もうわかったから!姉貴達とどっか行けよッ!」
「監視役をサウス姉様より申しつかっていますから」
部屋には魔石ストーブが完備されているなか、暖もとることなく床に置かれた桶の中に、姉達の言われるがままに半分程の冷水を注いで運ぶ魔道士の状況が混沌としているのは、田舎育ちで今でも偶に野生児と言われている私でも理解しています。
しかし、それ以上に私はーー
「あぁ…ルナ様…!」
ーー交代時間を待ち望んでいました。
*****
爵位も個々での能力も皆飛び抜けて優れていると呼ばれる、『再現』『複写』『抹消』『再生』を司る、ディレクション辺境伯家。
今代の魔族間でも飛び抜けて噂の的となっている三姉妹。
国宝級でもない限り、質を落とさずひとつまで完全に『再現』する、生粋の天才肌で長女のノース姉様。
質は多少落ちるが無制限で『複写』可能な、切れ者と謳われる次女のサウス姉様。
そして、何かを模造した物なら塵ひとつ残さず消し去る力ーー『抹消』を引き継いだのが、姉様二人を真似て神童と勘違いされた三女ーー私、イーストです。
先程は四つの能力を司ると言いましたが、私には妹はいません。
…正確には居ましたが、人間にその能力を奪われ殺されたと聞きました。
妹…ウェストは、代償を必要とする代わりにどんなモノでも『再生』する能力を持ってして、自身の不完全な身体を治しながら療養していたところを狙われたそうです。
当時、私は妹の存在を訃報と同時に知ったものですから、感情を姉様達より上手く表せませんでした。
我が一族の、普通の魔族より人間への嫌悪感が高まったのは言うまでもないでしょう。
そして、私達三姉妹は、一人では手に余り、三人合わせると不完全さが目立つ、不出来な運命共同体。
しかしその二つの思いは変化しました。
行儀見習いとして推薦された傲慢の魔王様の居城で飼っていた、白兎によって。
*****
尽き果てぬ欲望に応じて弱いものから強者が奪い取る。
それこそ至高の世界だ。
「ねぇ、ボクにソレ、ぜーんぶ頂戴?」
「許して下さいッ!どうか命だけは…」
「アハッ!そっか、じゃあ抵抗は許してあげるから…オマエの全てを持って、ボクを楽しませてね?」