第一話 命の重さ
作者のパステルです。
のんびりと週一投稿くらいが目標です。
ーードンッ!!
突然、背中に大きな衝撃が走った。
瞬きする間もなく、車が隣を通り過ぎて風圧でバランスを崩し転んだ。
受け身も取れずに擦れた傷口を焼くコンクリートの熱がジンジンと響いた。
込み上げる涙を堪え、即座に振り返った。
「ぃ…ゃ…!!」
私は…鮮烈な赤から、目が離せなかった。
今でもまだ、遠くから聞こえるサイレンの音が鼓膜に張り付いている。
全てが一瞬の出来事だった。
*****
分かっている。
自分本位なエゴだと理解している。
不幸自慢なんてしても仕方がない。
それでもーー
「…いってきます」
ーー人生は不平等だ。
*****
教室の扉をなるべく静かに、目立たぬように開く。
「あっ!」
結果は惨敗。
栗茶のゆるく巻かれた長い髪が行く先を閉ざす。
「ルナっちっ!おっはよー!」
西野杏子。
光沢のある明るめの緑の眼はペリドットのように爛々と光り、私という獲物をロックオンしている。
「おはよう、西野さん…私は宇佐美ですけどね」
彼女が大好きな皆様曰く、学園のマドンナで私みたいな気味の悪いボッチにも平等に接してくれている、らしい。
「うんっ!瑠奈ちゃんよりルナっちの方が親友らしい愛称でしょ?」
確かに私は根暗だし感情を表にはあまり出せないかもしれないし、白髪混じりの髪はハサミという刃物が信じれなくて伸ばしっぱなしで、お世辞にも見目麗しいとは言えない。
だけれども、誰にでも平等に親友を名乗り出ているなら、真っ直ぐな心で話しかけてくれる彼女の印象とはかけ離れている。
…あくまでも、自分に都合の良い妄想だけど。
「…そろそろ私の席から離れてくれる?」
「それなんだけどね、今日の一限目、アンズと教科書半分こしてくれないかなぁって…席も隣だし?」
あぁ。周囲からの無言の圧力が怖い怖い。
今日も今日とてクラスメイトの半分は、ヘイトを私に向けてくるなぁ〜。
彼女単体ならほぼ無害だからいいんだけどさぁ。
「ルナ?西野にも優しくしてやれよ?」
はい、混ぜるな危険が出た〜。
「城ヶ崎くんには関係ない」
「翔って、もう呼ばないのか?」
外野の黄色い歓声が喧しい。
コイツは城ヶ崎翔。
幼なじみと呼ぶにはいつも付き纏われてる気がする、赤子の頃からの腐れ縁みたいな奴だ。
「ルナっちはアンズと話してるの!ショウくんはアンズよりルナっちに近付いちゃだめー!」
「はいはい。俺より危ない思想持ちの西野は、今すぐ他のクラスの奴にでも教科書借りてこい」
あ〜、城ヶ崎推しと西野さん推しのヘイトがまた上がったわ。
マジで関わらないでくれないかな〜。
予鈴が鳴り、西野さんと城ヶ崎は自分の席へとようやく戻る。
そして担任の先生が出欠表を取り初め…なにもかもが眩い光に塗り潰された。
*****
「やったぞ!勇者様と聖女様が降臨された!」
「遂に、成功したんだ…!」
……は?
なんなんだ、このコスプレイヤー軍団は…
「召喚の儀が成功したとは本当かっ!!」
「グライアン陛下ッ!!選別がまだです!入ってはなりません!」
「おぉ!そうだったな。では宰相、導きの宝玉の使用を」
そう呼ばれてから一歩だけ私達に近付いた男が、兵士のコスプレをした人達が丁重に運んできた水晶玉に触れる。
すると、まるで魔法でもかけるかのようにブツブツと呪文なのような言葉を唱え始める。
「聖なる加護を与えられし者を」
かろうじて他に聞き取れたのは『勇者』と『聖女』と。
そしてーー
「…選別の時はきた」
ーー『廃棄物』だった。
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