15-22:魔族たちのその後について 中
ナナコの話は一度中座し、ここからはチェン・ジュンダー達の状況の報告になる。自分も南大陸に彼らが居ることは把握していたし、同時にシモンやブラッドベリ、並びに多くの魔族たちがそちらへ向かっていることは知っている。彼らは魔族の移民計画、それも惑星レムではなく、旧世界へ向けた船団を作っている最中なのだ。
きっかけは、レムが眠る前に旧世界の状況をチェンらに共有したことに由来する。実は七柱たちは旧世界の状況を監視しており、その様子に変化が現れたことがつい半年ほど前、つまりレムが眠りにつくのと同時期に分かったのだ。
観測の結果として、黄金の粒子に覆われていた星が急速に様相を取り戻しているようであると――この惑星と旧世界とは千光年の距離なので、その映像はちょうど今から千年前ということになるのだが、もしかしたら人が再び住める環境になっているかもしれないとの観測結果が出たのだ。
これだけでは根拠として弱い部分はあるのだが、ブラッドベリはそれに賭けようと思ったらしい。この星においてレムリアの民と魔族が本能的に相いれないのであれば、結局はどちらかが滅びるまで戦い続ける他ない。むしろ今までは七柱によって絶滅しないように上手く管理されていたのであり、その枷が無くなった今では、従来よりも本格的な闘争が始まってしまう。そうなる前に、ブラッドベリは魔族を率いてこの星を離れ、今度こそ自分達の楽園を創ろうと考えたのだ。
もちろん、魔族側からしてみれば、これはあまりに理不尽な結果と言わざるを得ない。勝手に作られて、生まれた故郷を追われ、マジョリティにこの星を譲ろうというのだから。それ故に、ブラッドベリは全ての魔族を強制して連れていくことを計画しているわけではない。この星に残りたい魔族に関しては魔族老グレンに任せ、南大陸で生活するようにと計画を立てている。これらの生存圏については、相互不可侵の条約をまとめた上で決定された。魔族の領域はエルフやドワーフの生存圏の中間でもあるので、今後はもう少し交易を通じて文化的な生活も出来る予定だ。
とはいえ、魔族のうちの大半はブラッドベリに付き従い、移民船で移動することになっている。そして、その計画を支えるため、チェン・ジュンダーとシモンは魔族たちに協力することとなった。チェンに関しては元から魔族に対して影響力もあるし、実際に一千光年の距離を超えてきた経験もあるので、宇宙航行に関するアドバイス役として。シモンに関しては宇宙船のスペシャリストとして、またダン・ヒュペリオンの夢を継ぐという意味合いも込めて、それぞれ魔族たちの新天地を目指して協力することになった。
シモンとしては、父が辿ってきた道を辿り、父の生まれ故郷を見ることになる。そこに関しては少々複雑な想いもあるようだ。それは父子にあった隔絶とは無関係で――今は自分と母の関係と同じように彼も父のことを素直に尊敬している――単純に、父が見たことがない世界を開拓することこそが自分の使命なのではと思う反面、それでも父の故郷に対する関心と、シモンを慕っている魔族達にできることを探した結果として、今回の件を引き受けたようだ。
「……僕からしたら、一番は宇宙に出ることだからね。まずはそれだけでも満足だし……それにこの身は比較的長命だから、次の航海もあるかもしれない。そうでなくても、もしかしたら僕の夢を継いでくれる者が現れるかもしれないからさ」
どの道、人の身に宇宙は広すぎる。可能な限り自分の目で見たくても、全てが見られるわけではない。だから、彼の父がそうだったように、星屑の夢は星屑たちに継がれていけばいいのだと――シモンはそう微笑みながらナナコに語ったようだ。
なお、この渡航に関しては、魔族以外にも若干名のドワーフの有志者も参加することになっている。その有志者とは、フレデリック・キーツと同じように記憶を子孫に継承して残り続けたDAPAの本物の職人である。彼らはキーツの遺志を継ぎ、またその息子であるシモンへの協力を惜しまないと――彼ら自身が宇宙が好きというのもあるのだろうが、同時にキーツの人望が伺えるエピソードでもあるだろう。
また、渡航中も観測を続けた結果、仮に旧世界がまだ人の住める環境になっていなかったとしても、魔族たちの新天地に辿り着くまでは航海を続けるよう考えているらしい。DAPAの持つテクノロジーを使えば亜光速航行はできるので最低でも千年以上、そうでない場合は更に何千年、下手すれば何万年もの長い長い旅になる予定である。




