15-17:教会の再編について 下
教会を去った後、クラウは聖レオーネ修道院に戻って孤児院の職員となった。それは、かねてからの彼女の願いでもあったのだが、彼女が教会での執務を止めてでも解決しなければならない差し迫った問題を解決する為でもある――つまり、黄金症の発症に端を発する、その後の第五世代型や魔獣の襲撃によって急増してしまった孤児達の問題が浮上してきたためだ。
魔族との戦争において戦災孤児が増えていたのに、そこからさらにその数が急増してしまったとなれば、親のない子供たちを受け入れるだけの設備が足らないという問題が発生していた。そこで、教会指定のいくつかの孤児院に優先的に予算を与えて人員と設備を拡充しているのだ。
とは言っても、孤児院の職員だって足りているわけではないし、予算が正しく使われているか監査をする必要もある。そのため、教会指定の孤児院には監査員が送られるとともに、クラウディア・アリギエーリは孤児院での業務について詳しい立場であるので、まさしく孤児院に派遣されるにはうってつけの人材ということであった。
「……元々、聖レオーネ修道院は建物の老朽化の修繕のために予算の申請をしていたんですが、ローザによって棄却されていました。それは、異端者である私を排出した腹いせだったのでしょう。
ともかく、新しい体制の元で聖レオーネの今までの功績が評価されたので、指定の孤児院となることができました。これも、アガタさんがキチンと評価してくれたおかげです」
そう言いながらウィンクをするクラウに対し、アガタは瞼を閉じながら微笑みを返した。実際の所、自分がアガタの立場であったとして――仮に親交が無かったとしても、クラウディア・アリギエーリを排出した孤児院となれば評価せざるを得ないだろう。七柱との戦いにおける貢献ももちろんだが、それ以上にこの過酷な世界において、クラウディア・アリギエーリの精神性を育んだ孤児院となれば、それは優れた教育が為されている証拠だからである。
このようにクラウとアガタは別々の道を歩み始めたのだが、連絡は密に取っているようだ。というのも、両名の補佐のために優秀な助手がついており、彼女らを通じていつでも通信ができるからだ。実は、ジブリールがクラウの、イスラーフィールはアガタの補佐として、それぞれ付き従っているのである。
話は脱線するが、第五世代型アンドロイドの多くは眠りにつくこととなった。正確に言えば、主には光の巨人が出現する前の状況に戻ったと言える――第五世代型達は元々保管されていた場所に戻り、再び長き眠りにつくことになった。
彼らは操られていたと言えども、多くの第六世代型の命を奪った。そのため、レムリアの民との共存は難しいし、そもそも彼らの存在そのものが、今この星の文化レベルからすればオーバーテクノロジーである。何より、ファラ・アシモフは第五世代型達がゆっくりと眠る世界を望んでいた――その遺志がそのまま実現された形である。
もし今後レムリアの民たちの文化レベルが上がり、此度の悲劇を過去のことと客観的に捉えられるほどの時間が過ぎたら、もしかしたら第五世代と第六世代の共存の道も拓けるかもしれない。その時には、もう第五世代が争いの道具として使われなくなれば良いのだが。
ただし、例外的に活動を続けているアンドロイドたちもいる。それは人工の月を維持するために活動している者たちと、一部人と見分けが付きにくい熾天使がそこに該当する。前者に関しては、月においてレムの自動管理は続いているものの、修復に手作業が必要な場合に働き手が必要である。月の管理区は今でも第五世代達と旧世界の生物とが静かに共存する静かな箱庭となっている。
熾天使に関しては、既にイスラーフィールとジブリールしか残っていないのだが、彼女たちは前述のようにそれぞれアガタとクラウに付き従っている。物静かで作業の正確なイスラーフィールは執務の補佐にうってつけであり適切な人材配置だったと言えるのだろうが――。
「ジブリール、意外と子供たちに好評なんですよ? 言葉遣いは乱暴な部分がありますけれど、根はやさしくて面倒見も良いですし、何よりも反応が大きいからついついちょっかいを出したくなるんですよね」
クラウはそう言いながらも、なかなかに良い表情をしている。言い方は婉曲的だったが、要するにジブリールは子供たちにからかわれて、それに対してジブリールは全力で応えているということなのだろう。その様子はありありと目に浮かぶし――実際、そんなに一生懸命反応してくれる相手が居れば、子供たちもついからかってしまうのも頷けるような気がする。
ジブリールとイスラーフィールも、大本は僚機として常に一緒に行動をしていた訳だが、敢えて違う道を選んだようだ。それはちょうど、親友同士であるクラウとアガタに触発され、違う景色を見ることで得られることもあるかもしれないという期待があったに違いない。
ともかく、今日クラウとアガタがこうやって時間を取れたのは、優秀な助手に仕事を任せていられるからという事情がある。イスラーフィールは快くアガタを送り出してくれ、ジブリールには「アンタの代わりに子供たちの相手をしておいてあげるんだから、お土産を買って来なさいよ!」と言われたようだ。もちろん、熾天使である彼女自身が土産に興味がある可能性は低いので、子供たちのために買ってきてあげて、ということのようだった。
以上が教会の現状、並びにクラウとアガタの近況である。ちょうど二人が話し終わるタイミングで、峠道の終着点が見え始めたのだった。




