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15-13:学院の再興について 中

 そんな中、まずは自分から近況について道すがら話すことになった。先ほどクラウに学院長代理と返したことについてや、その他もろもろの詳細は次のようになる。


 まず、戦いが終わった後、自分は学院の再建のために奔走することになった。それは、亡き師であるアレイスター・ディックの目指していた社会を実現する為でもあるし、レムリアの民の知識レベルを押し上げてくれていたダニエル・ゴードンを弔う意味もあった。


 それに、自分は学院に思い入れもある。幼いころから強制的に勉強させられていたという側面もあるが、別にそれを苦しいと思ったことも無かったし、幼少の頃を長く過ごした場所であるから愛着もある。だから、以前の活気を取り戻すため――いや、以前以上に活気のある場所にしたいという気持ちは強くあるのだ。


 自分の展望として、今後は学府を王都以外にも広げていきたいと考えている。ひとまずは人口の多い海都、辺境伯領、南大陸の玄関口であるアレクス、それにレヴァルの四拠点に設立できないかと計画を進めている。それは単純に多くの人に学びを提供するというという意味合いでもそうだが、王都とはまた別の風土で学閥ができ、レムリアの民の中で様々な意見が出せるようになることを期待してのものである。


 とはいえ、学院の再建は思った以上の難航を極めているのが実情だった。一年そこらで再編できるほど甘い事業でないというのが大前提。建物そのものは作り直せば良いだけだが――幸いにも多くの部分が崩壊を逃れており、多くの書物は残されている――人材と言うとその限りではない。本来なら間口を広げて多くの人に学問を提供したいと思っているのだが、そうなれば教員数が足らないというのが大きな障壁になる。


 それに、未だに学院に対するレムリアの民の不信感は大きい。元々学院の所属する者の多くは上流階級であったし、魔術神アルジャーノンの息が掛かった者たちであるということで、変な洗脳をされるのではないかとか、はたまた七柱の創造神の復活を企てているのではとか――この辺りは教会も近い課題を持っているのだが、後々詳しく聞けるだろう――根も葉もない噂を被っているのが実態だ。


 ひどい場合には、学院出身者の迫害が起こっているケースも存在する。多くの場合は、学院出身の魔術師は未だに多く残る魔獣の征伐に貢献してくれるのは勿論、実生活に関連する技術に対して科学的なアドバイスが出来るなど、学院の魔術師が歓迎されるケースは多いのだが――地方などの一部の地域では魔術師が憂き目にあっているという現実はある。


 なお、レムリアの民の中での七柱への信仰心や信頼は――もう彼らは全員去ってしまったのだが――当初の想定よりは悪いものになっていないことは付け加えておく。というのも、実害を出したのは主にアルファルドとルーナであり、他の五柱については実害が確認されていない点に起因する。


 とくにレムとレアに関してはレムリアの民のためにアルファルドやルーナと戦って見せたのであり、アルジャーノン、ヴァルカン、ハインラインについてはレムリアの民たちの目に入る所で悪逆を働かなかった。とくにヴァルカン神を信奉するドワーフは元からある程度の事情は知っていたし、ハインラインについては後述するが、実の所レムとレアに次ぐ評価を得ている。


 そんな中で学院が良い目で見られなかったのは、魔術師たちが旧体制のエリート層であるという点が挙げられる。要するに、社会的な中流以下の人々の吐け口として使われてしまっている点がある訳だ。とくに一次産業の従事者については、学問の重要性という物はあまり認識していない。農村においては最低限の文字が読める程度のことさえできれば、あとは勉学をさせる必要などは無いと思われているため、学院出身者に対する尊敬も都市に住む者たちよりも薄い。


 そういった諸々の事情において、学院の再建と展開という自分の展望は、それこそ何年もかけて行われていくべき大事業である。人を集めて教鞭をとれる人を採用するのはもちろん、社会的な不信感を払しょくするために努力もしていかなければならない。やるべきことは山積みだ。


 さて、自分が学院長代理という肩書に収まっている事に関してだが、それには何点か理由がある。ひとまずは音頭を取れる者が必要であり、とくに七柱の創造神を倒した自分は肩書的には十分な題目を持っているのでその座に収まっていはいるが、ある程度落ち着いたら自分はその席からどこうと考えている。


 その最たる理由は、自分の中にある旧世界の知識だ。自分はグロリアの知識を共有し、チェン・ジュンダーの残したデータベースから、いわゆる旧世界的な民主主義や宗教革命、産業革命、農業革命など、多くの知識を持ちすぎている。それが必ず、この世界の発展の足かせになるだろうと想定されるためだ。


 というのも、自分はどうしても進んだ世界を知ってしまっているが故に、そちらに向けて思考を矯正してしまうと予想される。たとえば、レムリアの民たちは立憲君主制をベースとした間接民主制による法治国家を目指し、動力革命と農業革命を通じて生産力を向上させていくべきだと考えてしまう。もちろんそれが絶対に間違えているという訳でもないのだが、恐らくこの世界にはこの世界なりの発展の仕方があるはずなのだ。


 たとえば旧世界と大きく違う点として、この世界は各地の産業や就学レベル、並びに文化が世界規模でほとんど一致している点が挙げられる。それこそ、都市部は農村と比べて多少は高くなるものの、七柱の創造神に管理されていたために、文化レベルでは大きな地域差が出なかった。この時点で、旧世界の民主主義の発展と大きく異なる。旧世界においては――それは道徳的に良いかは置いておいて――いわゆる進んだ国が後発的な国を一度は植民地化することによって、その産業レベルを自他ともに引き上げてきた経緯がある。これはこの星においては全く当てはまらない。


 他にも、魔術の有無や魔獣の存在など環境的な要因も大きく違う。このような状況下で旧世界を踏襲しようとしても、必ず歪みが生じる。もちろん、旧世界も様々な歪を経験して発達していったはずではあるが、それは様々な自然発生的な変数に人々が適応していった結果である。その変数が全く異なる惑星レムで旧世界の制度をそのまま当てはめてしまえば、却って社会的な混乱を引き起こす可能性がある。そうなれば、下手に旧世界の知識を持ってしまっている自分が社会に対して強い裁量権を持っているのはあまり好ましいこととは言えない。


 後は単純に、自分が学院長と呼ばれるには若輩者であるという点もある。知識的には――自分で言うのもなんだが、事実として――学府の長といっても問題ないレベルにあると思うが、組織の頂点に立つというのはそれだけで良い訳ではない。政治力や管理能力など、人としての総合力も求められる。自分もかつては前線で司令官という肩書を持っており、そう言った意味では人を動かしてきた経験がゼロという訳ではないのだが――准将という肩書はお飾りであったし、結局は最前線で戦うのが最も性に合っていたタイプだ。縦社会的な世界を生き抜いてきたとは決して言えず、そういう意味では組織の長としては人生経験が圧倒的に足らない。


 これらの要素を総合して、世間的な混乱がもう少し落ち着いてきたタイミングで、正式な学院長を選出する予定である。既に候補は何人かおり、各々の研究分野について非常に優れた見識を持つのはもちろん、黄金症発症を乗り越えて組織を維持した者など、社会貢献度も高い人々だ。


 以前の学院の体制では第七階層魔術を編み出せないと真の意味で教授になることは出来なかったのだが――当代において自分で第七階層を編み出したのは既に自分だけになってしまった――今はその慣習に従う必要もない。それに、学院の目的はむしろ学問の場の提供であって、魔術第一主義に走る必要はない。今後とも魔獣との戦いも想定されるので魔術を専攻する学部も残すべきだとは思うが、最終的には魔術師はある意味では学院から一つ独立した存在となるべきだろう。学府が軍と密接な関係にあるという事実は、あまり好ましいとは言えないだろうから。


 自分としては、相応しい人が学長の座に就いた後は、先ほどの四大都市を回って、各所に大学を設立するための礎を作るために奔走しようと思っている。とくに辺境伯領と海都は為政者にコネもあるし――元々海都はローザ・オールディスの影響力が強く、ダニエル・ゴードンの息のかかった学院の設立には否定的であったが、今では大分状況も異なる――比較的話も通しやすいはずだ。


 自分がそう告げると、エルとアガタが頷き返してくれる。もちろん、あんまり内内で決めるのも良くないので、正式な話はまた今度――アガタにそう言われて、ひとまずこちらの話に戻すことにする。


 難航しそうなのは砂漠のアレクスであり、ドワーフやエルフが多く暮らしている場所でもあるので、その辺りの伝手から上手くいかないかと考えてはいるが、それでも恐らくここに時間を割くことになるだろうと予想されていた。ちなみにの城塞都市に関しては言わずもがな、である。

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