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15-8:兄妹の別れ 上

 光の膜を通り過ぎると、そこは自分が最後に居た人工の月内における右京の領域だった。照明は出た時と比べて暗くなっており――非常灯のみがついている状態だからだろう――それでも室内の状況が見えるのは、密封された天窓のガラスから光が差し込んできているからだ。


 しかし、自分達の帰りを待ってくれている者は一人もいなかった。少なくとも、自分が気配を察知できる範囲に何者かの気配はなく、元々椅子に居たはずのシンイチの遺体すらも無くなっていた。


 ひとまず人のいなくなった椅子の上に意識を失ってしまったT3を座らせて、自分は周囲の調査を始める。もはや敵は居ないに違いないが、万が一ということだってあり得なくはないし、何よりも自分が発ってからの間にここで何が起こったのか、その手掛かりでもないかと探すことにする。


 一旦は自分が破壊した扉から足元の非常灯だけが灯る廊下の方を見て、その先にも何かの気配がないことを確認し、部屋へと戻って辺りの物色を始める。せめて、今が何時なのか分からないか――右京の言った通りにとんでもない時間が過ぎてしまった可能性すらある。


 空気は生きているし、部屋の荒れようもそこまで酷くはないので、何千年も経っている、という感じではないのだが――それでもDAPAの技術の粋で作られた空間だし、その他にも地上と比べて大気の流れだとか微生物の存在だとかも違ってくるので、思った以上に荒れていないだけかもしれない。


 また、辺りの様子以外にも何か違和感がある。少し考えて、その正体に気づく。レムの声が聞こえないのだ。この体にはジャド・リッチーの生体チップが残っているのであり、自分が帰ってきたのを感知したら声を掛けてきてくれそうなものだが。自分が月に居るからまだ戻ってきたことに気づいていたのか、はたまた彼女の身に何かあったのか――それこそもしかしたら、管理システムであるレムが機能を停止してしまうほど時間が流れた可能性すら否定はできない。


 そんな風に焦りつつも室内を探し回っていると、一つの機材が点滅していることに気が付く。よくよく見れば目立つ位置にあったのだが、T3を座らせた椅子の反対側にあったので少し発見が遅れてしまった形だ。ともかくその機材に近づき、適当に操作をしてみると、正面にあったモニターが点き、そこに女神レムの姿が映し出された。


「いつの日か貴方がここへ戻ってきてくれることを期待して、この音声を残します。貴方が何時にこの場に戻ってこれたかは……どうか端末に表示されている日時から確認してみてください。

 もしかすると、遠い未来に送られている可能性も否定はできませんが……そう遠くない未来に戻ってきてくれていることを祈ります」


 端末に記載されている日時は、彼女が告げた自分が居なくなった日付からはズレがあった。これほどの時間が経ってしまったのか、という想いもあるが、下手をすればもっとズレていた可能性もあるのだし、何よりも普通に呼吸できる場所へ戻ってこれただけでも上等――というより、そもそも次元の果てから帰ってこれただけでも上等なのだろう。そう思いながらモニターに視線を戻すと、彼女の顔は真面目な表情に切り替わっていた。


「結論から述べますと、既にチェンたちはこの月から惑星レムへと帰還しています。そして私は、自身の機能の大半を停止させることに決めました……細かい状況については、これからお話します。

 なお、残念ながら……アルフレッド・セオメイルは宇宙に逃げたローザ・オールディスを追って帰らぬ人になってしまいました。他のメンバーについては、皆無事に帰還をしています」

「大丈夫だ、そいつもちゃんと拾ってきたからさ」


 モニター前の椅子に腰かけ、背後の椅子で眠っている男の方を指さす。しかし、彼女が機能の大半を停止しているというのは本当なのだろう。自分の言葉に対して彼女は無反応であり、真面目な表情のまま話を切り替えたからだ。


「貴方が次元の壁を超えて行った直後、第六世代型のほとんど全てが一時的にその意識を失ってしまいました。しかし、その後すぐに、何事もなかったかのように復活を果たし……それで私たちは、貴方が星右京を止めてくれたのだと確信しました。ありがとうございます、アランさん」


 レムはそこで言葉を切って深々と頭を下げた。次元の果ての様相から、人々の魂が戻っていたというのは何となく直感はしていたが、事実として皆戻ってこれたようで良かった――そう胸をなでおろしていると、レムの口から戦いの後の状況が語られ始める。

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