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14-111:母に聞かせる物語 上

 魂を燃やし、還るべき場所への道を無理やりに切り拓くと同時に、自分は色彩鮮やかな光の渦の中へと引き込まれていった。原理的に考えれば、このまま自分はあの世へと送り届けられるということになるはずだが――自分の予想ではその前に一つ立ち寄る所があるはずだった。


 しかし、ソフィア達は大丈夫だろうか? 一瞬だけそんな疑問が思い浮かぶが、何も疑うことなどないと思い直す。光の渦に引き込まれる直前、確かにソフィアは詠唱を終え、第八階層魔術が発動する瞬間を見た。それがどんな魔術であったのか、自分には知るすべはないし、それを見られなかったことだけは少々無念にも思うのだが――少なくともその勝利を疑うべくもない。あの子の魂の輝きは本物だったのだから。


 そんな風に思っていると、激しい光の明滅の渦を抜け、次第に辺りが暗くなっていき――そして再び遥か先に光が見え、自分はその灯りに吸い寄せられていく。あたかもそこに強大な引力が発生しており、自分を誘っているかのようだった。


 視界が明瞭になり始めたかと思うと、今度は激しい光の明滅で視界が一杯になる。その中で意識を力の出どころへとむけると、片や上空から銀髪の少女が――ナナコのようだが、初めて見るゴシック調の衣服に身をまとっている――剣を振り下ろし、そこから発生する強大なエネルギーを下に叩きつけている。


 それに対し、今度は下を見ると――やはり、居た。自分と同じ様に母に扱われ、同じ人を愛し、それ故に同じ絶望を味わい、同じ希望を見た、大切な大切な半身が。金髪の少女は上から叩きつけられているエネルギーに対し、歯を食いしばりながら己の魔術で対抗しているようだった。


 強化弾で威力を増大させたとて、シルヴァリオン・ゼロは魔剣レヴァンテインのゴッドイーターと対抗できるほどの威力は無いはず。それが、今目の前で起こっているように互角の勝負にまで繋がっているのは――ただ魔術を編むのではなく、そこに彼女の魂が籠っているから。すなわち、この時から第八階層を生み出せる奇跡の兆候はあったということなのだろう。


「成程……極大なエネルギーのせめぎ合いが、時空を歪めてアナタの魂の場所へと私を導いたのね」


 そう呟きながら二つの力の奔流を眺めていると、一瞬視界が真っ白になり、そして再び辺りの様子が一変した。どこまでも真っ白で、無重力の空間。恐らくは自分という本来はここに無いはずの魂が時空の歪みを通じ、結びつきの強い彼女の前に現れたことで、自分と少女だけの魂の領域が展開されたのだろう。


 その静謐な空間において、在りし日の幼さを残す少女を懐かしい想いで見つめていると、彼女の方は呆然とした様子で――それもそうだ、彼女は自分のことをまだ知らないのだから――こちらを見ている。


「アナタは……?」


 その質問に対しては、何と返すべきか一瞬だけ躊躇する。素直に言ってもいいのだが、これから消え去る者が何某ですとわざわざ自己紹介するのも違うように思う。それならと、自然と思いついた表現で自己紹介することにする。


「私は、もう一人のアナタよ」

「何を言っているのか分かりません……私は私、ソフィア・オーウェルです。後にも先にも私はただ一人、もう一人の自分なんていません」


 こちらの抽象的な物言いに対し、ソフィアは怪訝そうに――同時に激戦の途中のため、どこか疲弊した様子でこちらを見上げた。それにしても、このどこか突き放した様子は出会った頃のソフィアそのもので、ついおかしくなって笑ってしまいそうになる。同時に、この後にその精神を融合させようとまで自分を信頼してくれたことに対して、愛おしさを覚えた。


 しかし、幼い日の彼女を前に、ただ一生懸命で可愛いなどと感想を抱いて終わりにすることもない。彼女がこの先に待ち受ける絶望に対して心を折らぬように――これが本当に自分が彼女にできる最後のことだと思い、在りし日の少女に向けて助言を遺していくこととしよう。

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