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14-103:愛はさだめ、さだめは死 中

 そもそもとして、所詮つくられた器である第六世代型がこちらに説教を垂らしてくるだけでも吐き気を催す。その能力も知識もこちらと比べて格段に劣るものが意見を述べるなど、笑止千万だからだ。中には生体チップで記憶や情緒をいじって完全に服従させてみる者もいたが、そうなるとこちらの言いなりになり、全てが既知の範囲内に収束していく。それはそれでつまらなかった。


 男に飽きれば女も相手にしてみたが、すぐに男の方がマシだという結論に落ち着いた。自分に同性愛の気が無かったのはもちろんだが、概ね女というのは男と比べて陰険な傾向にあり、とくに幼い時には愛玩動物のような可愛らしさがあるものの、二次成長を向かえると神聖な美しさが損なわれ、どんどんと利己的になっていくからだ。統治が千年を超えるころには女を相手とするのは完全に飽きてしまい、どちらかといえば嗜虐的な趣味を満たすのに利用していた。


 結局、どいつもこいつも自分を満足させてくれることはなかった。飽きた相手に関しては、基本的には自分との関係性を記憶を操作し忘れさせて放出した。ハーレムに加えていた者たちはその能力も高い傾向にあり、殺してしまうのは勿体なかったためだ。もっとも、女神の逆鱗に触れた場合はその限りではなかったが。


 しかし、何故だかふと疑問に思った。自分にとって理想の相手とはどんな者だろうか? 屈強で、かつ美しい男性だろうか。いや、そのような者は何人も相手にしてきたし、仮に万能の力でより性能が良い相手を創り出したとしても、それが自分を満足させてくれるとは思い難い。それでは、自分より全てにおいて優れている頼りがいのある者だろうか――いや、そんな相手ではこちらを裏切るリスクを考えれば安心はできなくなる。絶対に裏切らないように創ることでカバーできるとも言えるが、自分より全てにおいて優れているとなればその存在自体が癪になるだろう。


 それでは――自分のすべてを受け入れてくれる、愛の深い者ならば、自分を満足させてくれるだろうか? しかし、それもあまりしっくりとは来ない。もしかすれば、霊的な存在ならば――肉体を持たない者なら――肉の欲に囚われることなく、完全に理性的な存在として自分を愛してくれるかもしれない。しかしそれではこちらの欲求が解消できない。何なら、別にそれが一人でなくたっていいはずだ。それこそ自分が捨ててきた相手と同数の相手を創り出し、その者たちに愛を語らせても良い訳だが――それはそれで煩わしそうだ。


 そもそも、自分を満足させる相手の存在自体が必要なのだろうか? 高次元存在を手中に収め、全てを自由にできるとなれば、それだけで満足であり、万能であり、もはや理想の相手など必要はないのではないか。だが、それはあまりしっくりは来なかった。


 ふと、右京の言ったことを思い出す。自分が作ろうとしているのは王国であり、そこには必ず他者が介在すると。要するに、自分の理想は――全てを思い通りにできるようになってまで求める先には、必ず何者かが存在し、己の身だけでは完結しない。


 言われてみれば――言い当てられたようで癪ではあるが――右京の言い分は的を射ている部分もあるだろう。自分がどれほど美しく超越的な存在になろうとも、それを賞賛してくれるものが居なければ完璧になったことに意味が生じないからだ。優れているというのは相対的な物であり、何某かの対象が居なければ優劣が決定されない。孤高の完璧に何の意味があるだろう? 一万年間も生きてきて、最後に得られるものが孤独の玉座であるなどというのは、あまりにも虚しいではないか。


 そうなれば、結局のところ自分が真に求めているものというのは――。


 その時、自分の体が納められているガラスの容器に何かが衝突してきたような衝撃が走った。万が一のことを想定してかなりの強度で作られている容器であるので、壊れこそしなかったが――周辺の状況を確認するために目を開くと、ガラスの前に一人の銀髪の男が無表情でこちらを見下ろしていた。


 アルフレッド・セオメイル。自分を追いかけてきたと言うのか。しかし、いくら身体を改造していると言っても、胴体部分は生身であり、宇宙空間では生きてはおられないはずだが。よくよく観察してみると、どうやら男の周りには常時薄い大気の膜が断続的に生成されており、そのおかげでゼロGと無酸素状態を克服している事に気づく。


 そして男は右手に持った斧を振り上げ、それを思いっきりガラスへと叩きつけてきた。その一撃は強化ガラスを打ち破ることは無かったが、男は諦めることをせず、もう一度斧を振り上げ、冷たい瞳でこちらを見下ろし、また力一杯に斧を叩きつけてきた。斧の刃が欠けると、宇宙空間にそれを投げ捨て、また外套から新たに一本を取り出し――ただ作業をするように刃を何度も何度も何度も、自分を保護するガラスに対して叩きつけてくる。


 そう連続的に叩きつけられては、強化ガラスと言えどももたないかもしれない。男の腕は機械の腕であり、生身と比べて膂力は大きい――いや、大丈夫だ、既に斧を二本ダメにしている――いやいや、精霊魔法による強化もあるし、何よりADAMsによる速度の増加が恐ろしい威力を生んでいる――そんな風に思考が回っていると、とうとうガラスに一本の亀裂が入った。

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