14-100:遥かな誓い 中
「T3さん!? 大丈夫ですか!?」
「あぁ、問題ない……それよりもセブンス、今まですまなかったな……」
「え、えぇっと……?」
自分の登場が予想外だったのか、セブンスは驚いたように声をあげ、こちらの謝罪に対しては困惑したように肩を揺らす。今まで相当邪険にしてきたのだから、謝罪する妥当性はあると思うのだが――確かにこの緊急事態で急に謝られても何のことかと思うのも当然だろう。
だが、自分が謝りたかったのは邪険にしてきたことというより、もっと根本的な部分――いや、自分が目を逸らし続けていた部分に関することだった。
「お前の中には、確かにナナセの魂が宿っている……だが、それだけが理由ではない。私は今のお前を……ナナセだからではなく、セブンスとして……」
愛している。今自分の腕の中にいる少女の魂の輝きは、確かにナナセのものであると同時に、それ以上の輝きを放っているのだから。
しかし、続きを言うのは憚られた。自分は今まで散々この子を邪険に扱ってきた。それが今更になって、どうして愛しているなどということが出来る? 血にまみれたこの手でこの美しい魂に触れるなどと、どうしてそのような暴挙に出ることができるだろうか? それではあまりに自分勝手がすぎるのではないか?
とはいえ、今は自らの内で問答をしている暇ではない。今は彼女を支えてやることだけが最優先の事項だ――だから自分は、ただその気持ちだけを伝えればいい。
「ここまで共に歩んできたセブンスとして、お前のことを支えたいと思っている。今この瞬間も……そして、これからもだ」
そこまで言って、セブンスはこちらへと振り返り、大きなブラウンの瞳を見開いてこちらを見てきた。最初はこちらの言いたいことが伝わらなかったのか呆然としたように、そして次第に内容を認識したのか、その瞳をキラキラさせながら口を開いた。
「ほ、本当ですか……?」
「あぁ、本当だ」
「それなら、もう少し私のことを甘やかしてくれますか?」
「……あぁ、最大限善処する」
「それならそれなら、私の作ったお料理、食べてくれますか!?」
「…………私が教える。支えるというのはそういうことだ」
なんだか話が脱線してきているが、まだ何か言いたいことがあるのだろう、セブンスはまだ「それなら、それなら」とぶつぶつと続け――しかし言いにくいことなのか、セブンスは少し俯いてしまう。
「それなら……この戦いが終わったら、私と一緒に旅をしてくれますか?」
そこまで言った後、少女はその瞳に不安の色を浮かべながら顔をあげた。
「私、この一年間、ずっと考えてたんです……私は、この世界のことが大好きだって。アランさんやソフィア……皆さんと出会えたこの世界が……アナタと巡り合えたこの世界のことが大好きだって。
でも、まだまだ見たことない景色がたくさんありますから……それを、アナタと一緒に見て回りたいんです。T3さんはきっと世界のいろいろな所を知っていると思いますし、夢野七瀬と一緒に色々な景色を見たと思うんですけど……その……」
セブンスはそこまで話してから、またしどろもどろになって視線を落としてしまう。だが、彼女の言いたいことは分かった。今の彼女には、サークレットで情緒を抑えられていた時の記憶はおろか、ナナセの記憶もない。それをもう一度、様々な所を巡って思い出を取り戻そうと――いや、新たな想い出を作りたい、そう思っているのだろう。
「あぁ、約束する……必ず、この世界を旅して周ろう。共にな」
そう返答を返すと――断る理由などないし、今の彼女と歩む道は、また世界に別の色彩をもたらしてくれるだろうという期待もある――セブンスはまた驚いたように顔を上げて、口元をわなわなと振るわせだし、目尻に小さく涙を浮かべ始めた。
そして――。
「……すっごいやる気出てきましたぁあああああああああ!!」
少女の咆哮と共に剣を大きく掲げ、その刀身から発せられる輝きが一気に爆発した。その光は確かな質量でも持っているかのように――それも敵対する者のみに効果を発揮している――徐々に押され気味であったルーナの肉を押し返した。
その強大な力が負担になっているということは無く、少女は自らの両手のみで剣の柄を握っている。先ほどまで集めていたエネルギーは人々の意志のエネルギーであったのに対し、恐らくただいま燦然と輝いているエネルギーは彼女自身の魂の輝きであり、それ故にセブンスの重荷になることもないのだろう。そしてその燦然と輝く彼女の意思は、未だかつてないほど美しく、そして力強かった。
今になって彼女が自身の意志の力を強められたのは何故であろうか。思えば、彼女の剣は何かを討ち倒そうとする力は似つかわしくなかったのかもしれない。彼女の剣は、何かを守るため、そして――未来を期拓くためにあるのだから。
セブンスは立ち上がる光を身にまとい、毅然とした表情を浮かべていたが、突然ハッと目を見開き、唐突にあたふたとし始める。
「あ、あのあのあの! もちろんずっとやる気百パーセントだったんですけど! それがT3さんのおかげで千パーセントになったと言いますか、決して今まで手抜きをしていた訳ではないと言いますか……と、ラグナロク?」
自分の四肢に絡みついていた鎖や導線が離れていき、代わりに自分の背中の方へと伸びていく。そして背負っていた精霊弓が刀身の方へと引き寄せられ、剣と弓とが融合を始めた。確かにこの巨大なエネルギーは振りだすより、撃ちだす方が合理的といえる。剣もそのように判断したのだろう。弓はちょうど十字の形を描くように剣と融合し、立ち昇っていた金色の光がその刀身から柄へと流れる様に一気に収束した。




