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14-99:遥かな誓い 上

「アレは……恐らく、ワームホールですね。重力を発生させるものと考えられていましたが……どうやら星右京によって特殊な力場として生成されたのでしょう」

「……つまり、次元を超越するための門が開かれてしまったということだな?」


 チェンからの返事を聞く間もなく、自分たちは迫る気配に対して正面を向かざるを得なかった。ルーナが周囲を巻き込む速度はさらに増しており、触手が――既にそれは触手というのはあまりにも太く、押し寄せる化合物の波とでもいう方が正確になってきている――凄まじい速度でこちらへ向かって突進してきたからだ。


 ブラッドベリは衝撃波で、チェンは残っている布袋劇の武装と結界、念動力の合わせ技で、そして自分はADAMsを起動して手早くエルブンボウの弾倉を入れ替えてセブンスの後ろに立ち、襲い掛かるルーナの触手に対して波動弓と精霊魔法を使って抗っていく。


 しかし、三人でどれ程抗おうとも、押し寄せる暴力を止めることは出来ない。ただ自らのが立っている部分を守ることしかできず――最後には自分達の立つ半球状に余白が産まれているのみで、攻撃の隙間から覗く外側を見るに、すでに自分たちはすっかりとルーナの体内へと誘われてしまったようだ。攻撃の手を休めた瞬間に、器たる少女たちやルシフェルと同様に、自分たちも一気に呑み込まれてしまうだろう。


「ゲンブ! これでいいのか!?」

「えぇ、これでいいのです! 内部からの攻撃の方が効率的にダメージを与えられるでしょうから!」


 ADAMsを切った瞬間に、ブラッドベリとチェンとの会話が聞こえた。どちらかといえばもはや退路が無く、押し寄せる波に対して呑み込まれざるを得なかったというのが正確なようにも思うが、確かにチェンの言う通りで内部からの攻撃の方が壊滅的なダメージを与えることは可能であろうから、そういう意味では怪我の功名と言えるか。


 予想が真となるかは、自分の背後で剣を構えている少女の肩に掛かっている。確かに自分たちのいる半球状の空間を眩いばかりの金色の光が溢れだし、大いなる力の奔流を背中に感じていた。


 その力を放出すれば、確かに自分たちが放てる攻撃の中で最大の物にはなるだろうが、果たして彼女が紡ぐ力が増大するのと、全てを呑み込むルーナの力が増すのと、どちらの方がより大きいかは予測もできない――それに、ただ呑み込み、自らを肥大化させていくだけのルーナに対して、果たして増大するエネルギーに対して、少女とその剣は耐えられるのだろうか?


 そんな不安が脳裏をよぎり、加速した時の中で一瞬だけ背後を盗み見る。


「……チェン、後ろを代われ!」


 苦々しい表情をしている少女が視界に入った瞬間、ADAMsを切って思わずそう叫んでいた。チェンも状況を察したらしく、すぐに自分が守っていた位置と元々彼が立っていた位置のちょうど中間に立ち、押し寄せる壁に対して抵抗を始めてくれた。ブラッドベリもすぐに察し、チェンと二人で自分が欠けた分をフォローしてくれている。


 チェンに後ろの守りを負かせたのは、別の意味でセブンスが窮地にあったからだ。恐らくワームホールの影響なのか――星右京の計画が進み、青き星に残る魂の数が減ってしまっているのだろう――剣に集約される力の勢いが急速に弱まってきているのだ。アレでは、先ほどの一撃と同等か、せいぜいそれ以下の威力しか発揮できないだろう。セブンスもそれを理解しているから焦っているのだろう。それを見て思わず飛び出てしまった形だ。


 しかし、彼女のもとに駆けつけたとして、いったい自分に何ができる? 確かに彼女のそばに立つことによって、少しは助力はできるかもしれない。とはいえ、本来なら何万もの意思の力を練り上げることで威力を発揮するその機構に、たった一つが追加されたところで、幾ばくかの足しにしかならないだろう。


 いや、それでも。少しでも彼女の助力になるのならば。理屈などより今、自分にできることをするだけだ。少なくとも、今自分の胸にある想いは、強いものだ――そう思いながら小さな身体の後ろに立ち、その小さな手を支える様に自分も機構剣の柄を握った。


「ラグナロク! 私の力を使え!」


 こちらの声に呼応するように剣は刀身から鎖や導線を射出させ、それらをこちらの四肢へと巻きつかせてきた。神経は通っているので腕や足に圧迫感は感じるが、痛覚はないので問題は無い。そして、意思の力に呼応する刃はこちらの想いを組み上げるように、霧散しかけていた黄金色の粒子をその身に集約させ始め、再び巨大なエネルギーを帯び始めた。


 よかった、自分の力が足しにはなったようだ。しかしこちらが剣にその身を拘束されていることに驚いたらしく、セブンスは首を半分回して驚愕の表情を浮かべている。

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