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14-97:もう一頭の虎が生まれた日 中

 言い終わるのと同時に、最大出力の波動弓を放つ。もっとも、それがアレにとって致命傷になるということは――自分の冷徹な殺意を乗せたところでそれが威力に乗る訳でないことは自明なため――分かり切っており、実際こちらの攻撃は幾分か肉の表面を焼くだけで終わってしまう。


 だが、分かったこともある。今の一撃は、一応は結界によってその威力を減衰させられはした。しかし、七星結界が張られていれば、その防御力はエルブンボウの一撃を完全に防ぐことが出来るはず。それでも幾分か表面を焼くことに成功したのは、ルーナはその身体を肥大化しすぎて、結界を上手く一点に集中させることが出来なくなっているのだ。


 完全に無効化されることと、幾分かダメージが通るのとでは、そこに大きな違いは出てくるはず。それを無限の再生能力で補われていると言われればそれまでだが――実際にそのように思ったのだろう、チェンが迫りくる触手に向けて護符を向けて結界を張りながら、シニカルな笑みを浮かべてこちらを見ていた。


「随分と格好つけているようですが、アレを止める算段があるということですか?」

「それは……今から考える」

「はは、成程、成程……それは流石に悠長と言わざるを得ませんね」

「そういう貴様には、何か策はないのか?」


 こちらの質問に対し、チェン・ジュンダーは小さく首を振った。しかし、その表情にはどこか余裕が感じられる。これは全くの直感だが、奴もまた少女の怒りを見て本来の冷静さを取り戻し、その聡明な頭脳でもって打開策を――それが確実に有効とは言えないのだろうが、それなりに蓋然性がいぜんせいのある策を――思いついているに違いない。


「残念ながら、策という策はありませんね。アレは肥大化する単純な質量であって、急所を晒しているとかいう弱点がある訳でもありません。それに、すでに気が狂ってしまった彼女に対して、精神的な動揺を誘うこともできません。単純に巨大なものを破壊するに、策も何もありませんよ」

「だが、希望はあるのだろう?」

「希望といっていいかはわかりませんが……巨大な物を破壊するには、それだけ強力なエネルギーが必要になるというだけです。ただ、不幸中の幸いとして二点。

 一つは、先ほどアナタが見せてくれたように、ルーナは結界を上手く張ることが出来なくなっているということ。そしてもう一点に関しては、私はまだあの剣の天井を知らない……もしかすれば、アレを倒し切るだけの火力を出すことも可能なのかもしれません」


 そう言いながらチェンが視線をやったのは、今も伸びる触手を断つのに使われている機械仕掛けの剣だった。先ほどセブンスが放った一撃は自分たちの中で最大の威力であったはずだが、確かにその限界までエネルギーを貯めたという訳ではないのかもしれない。ラグナロクはレヴァンテインのように事前に集めていたエネルギーを放出する形ではなく、剣の機構を解放してからエネルギーを集める方式であり――敵からの攻撃が激しい戦闘の最中において、天井までそのエネルギーを集めることなどは出来ないのだ。


 もちろん、限界まで貯めずとも十二分すぎるほどの威力を有しているから、今までそれを使うことは無かった。もしもそのエネルギーを限界まで貯めることが出来たら、確かに肥大化する塊を葬ることも出来るほどの一撃を放てるかもしれない。しかし――。


「貴方の気持ちは分かりますよ、T3。あれだけ格好つけた手前、セブンスに頼るというのが情けないと思っているのでしょう。とはいえ、結局我々は持てる全力でアレに対抗するしかありません。貴方の言うように、感情を向けてやるのは勿体ないというのは同意ですがね。

 生物がその身を巨大にすれば、自らを維持するためのエネルギーが多くなるのは永久不変の真理。そうなれば、巨大化したアレは先ほどよりも全体を復旧させるのにはより強大なエネルギーを必要とするでしょうし、その身全体を護るほどの結界を張ることもできはしないでしょう。

 それに、あの有機物と無機物の化合物を完全に消滅させる必要もありません。ただ、指令を下している本体さえ倒しきることが出来れば良いのですから」


 チェンはそこで言葉を切り、移動をしながら触手を迎撃しているセブンスとブラッドベリの方を見た。

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