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14-93:ゴードンの叫び 上

「第六魔術弾装填……いくよ、グロリア!」

「えぇ、ぬかるんじゃないわよ!」


 ソフィアとグロリアがそれぞれ魔術を編み、翼をはためかせる天使の周囲で計十二の魔法陣が飛び交った。そしてそれらが結合され、二つの巨大な陣になり――少女がまず白藍しらあいの陣を杖でそれぞれ叩くとそこから巨大な氷柱が撃ち出され、その直後に叩いた黒紅色の陣からは炎雷が唸りを上げて放出された。


 両方とも魔術に寄る一撃にはなるが、氷が物理攻撃の役割を果たし、雷がエネルギー攻撃の役割を果たしていたのだろう。そういった感想を抱いたのは、事が終わった後だった。確かに原理的に言えば多重位相のバリアを貫通できるだけの一撃だったのだろうが、しかし――。


「……ディスペル!?」


 ソフィアが驚きに目を見開き、そう声をあげた。愚鈍なるゴードンの前で炎をまとった稲妻が霧散し、残りの氷柱は対物バリアによってその勢いを止められ、そのまま氷は敢え無く自分の横を通って下へと落下していったのだ。流石に機械のような精密さで同時に着弾した二つの魔術を同時に解呪することは出来なかったのだろうが、片方でも無効化すれば多重位相のバリアは機能する。それ故にゴードンは雷の方をディスペルした、ということなのだろう。


『防御プログラム……履行者がいなくても、魔術の性質さえ認識出来れば思考の分割領域で解呪くらいは高速で組める。この可能性は想定しなければいけませんでした』

『それじゃあ、どうする? ソフィアの攻撃はどうしても魔術が絡むし、やっぱり、俺が……』

「……でていけ」


 レムと次の算段を立てている間に、空間内に小さな声が響いた。そしてもう一度「でていけ」とと聞こえた時には、もう少しその音量は大きくなっており――合成音声であり、人の発声では無かったのだが――何故だかどことなくその抑揚は幼さを感じたように思う。


 そしてもう一度「でていけ」とはっきり聞こえた時には、空間が振動を始める。正確には空間が音で震えているという訳ではなく、中央の機械柱全体が唸りをあげているのだが――それを認識した直後、柱から螺子や釘などの留め金がガタガタと揺れ始め、そこから数を減らしていた配線が一気に噴出し始めた。


「でていけでていけでていけ!」


 再び空間が大きく振動したのは、今度こそは聞こえてくる音の大きさのせいだ。癇癪を起した子供のような大音声が辺りの空気を振動させ、鼓膜と肌とをびりびりと震わせる。そして先ほどより数を増したのかと思うほどの配線から再び魔法陣が舞い始め、先ほどよりも苛烈で滅茶苦茶な攻撃が辺りを覆い始めた。


 出て行って欲しいのならそんな攻撃をしてくるんじゃない――そんな風に心の中で突っ込みを入れていると、それをかき消すようにレムの声が頭の中に響きだす。


『おかしい……いくらモノリスと直結していると言っても、流石にこれだけの魔術を同時に処理できるほど演算処理能力があるとは信じがたいのですが……』

『大方、右京の奴が何か悪いことでもしたんだろうさ』


 思い付きで返答しただけではあるが、意外と的を射ている話な様にも思う。大本の機構自体はアルジャーノンが設計したものなのだろうが、計算において凄まじい処理能力を持つレムが違和感を持つほどの設計は魔術神をしても難しいだろう。それが実現可能になったと言えば、そこに何某かの力が加わったとしか考えられない。そしてそれを出来る人物はたった一人しか思い浮かばない。右京が量子ウイルスで高次元存在の力を一部分引き出せるようになり、それをダニエル・ゴードンに授けたとなれば説明は――原理などはおいておいて、少なくとも目の前の現実は――できる様に思う。


 しかし、現実への因果関係の説明が着いたところで、状況がより厳しくなってしまったことには変わりない。とくに下へ降りてきていた自分とソフィアは上下からの攻撃に晒されることになる。


 かなりの密度で攻撃が行われているが、ブラッドベリの衝撃波の渦と比べればまだ多少はマシだ――しかし、それはADAMsを起動している自分だからこそ、攻撃の相対速度を落として確認が可能なのであり、他のメンバーまでがそうなわけではない。ソフィアは相手の攻撃密度に対して良く反応は出来ているといえども、徐々に追い詰められて飛ぶ先を失いつつある。炎や雷、真空の刃が交錯する中で一点を見切り、思い切って外周を蹴って跳び、ソフィアの背後から激突しそうな巨大な氷塊を蹴り飛ばして援護に周り――本来なら空中で彼女の体を抱きとめて安全圏まで離脱してあげたかったのだが、中空ではマッハ3から減速できないので、急に衝突すれば自分自身が厄介な魔術と同等の攻撃になってしまう――そしてそのまま氷を蹴った反動で再度跳び、攻撃の切れ間を縫って対面の外壁へと着地する。

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