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14-92:愚鈍なる君 下

 ともかく、やるべきことは決まった。先ほど確認したように、外周や鉄橋を上手く使えば、この空間内を縦横無尽に動くこと自体は可能だろう。それに配線を破壊するだけなら、変身を温存することもできる。


 何より、ソフィアとグロリアのコンビなら、きっとどんな困難も乗り越えてくれる。自分は彼女たちが飛び立ちやすいように道を切り開くだけだ。ベルトから虎の爪を取り出し、音を超えて走り出し、外壁へと向けて跳躍し、その途中で蠢いている配線を一本、二本と断ち切る。そしてそのまま外周へと着地し――衝撃で壁がへこむが気にせず――また別の角度で跳躍して、同様に数本の配線を断ち切った。


 適当な鉄橋の上に着地して一度加速を切って辺りを見回すと、先ほどの作戦はレムが他のメンバーにも伝えてくれたのだろう、エルとクラウディアも魔術を放つ配線の切断に参加を始めた。エルはヘカトグラムで重力を操作しながら擬似的に飛翔ができるし、クラウディアも足元に簡易な結界を展開することで空中で方向転換が出来るので、高低差をものともせずに動き回ってくれている。立体的なこの領域においてはナナコたちの方が苦戦したと思われるので、自分たちがこちらで良かったとも言えるだろう。


 そしてソフィアとグロリアも柱の周囲を飛び回りながら本体の方へと向かって行っているのだが、やはり動きにくそうにしている――彼女の飛行速度は確かだが、それでもランダム性の高い攻撃が吹き荒れている空間で一気に降りるのは危険を伴うし、彼女は腕を出さなければ防御をすることが出来ない。それ故、どうしても今のうちは自分たちと同じように、敵の攻撃を少しでも抑えるために今は氷の刃で配線の切除にいそしんでいるようだった。


 上の方はエルとクラウディアに任せれば良いと判断し、足が早い自分が先行することにする。再び奥歯を噛んで加速し、当初の予定通りに下を目指して飛び降り、もとい足場を利用して蹴り降りて行く。その際、EMPナイフの投擲も合わせ――配線の硬度的には、高速で撃ちだしたナイフなら十二分に破壊できる――少しでも多くの魔術機構を破壊しながら下へ下へと下っていく。


 もちろん、自分にはグロリアやクラウディアのような結界はないので、魔術が直撃するようなことがあればかなり危険であり、完全にランダムに撃ちだされているそれを避けるのも難しいのではあるが――それでもADAMsの神経加速に物を言わせて可能な限り避けつつ、完全に回避しきらない攻撃に関しては、トリニティ・バーストとクラウディアの補助魔法、それに自前の再生能力にものを言わせ、多少のダメージは覚悟で無理やりカバーしながら突き進んでいく。


 一定層まで降り、最初にゴードンの気配を感じた高さにまで到達すると、ちょうど本体がどのようになっているのかその様子を確認することが出来た。直径百メートルはある中央柱のその中間に、旧世界の文字で「Gordon the Fool【愚鈍なるゴードン】」と刻まれたプレートの――この領域は他の七柱は侵入できないはずだから、彼はわざわざ自らを愚鈍と称したのだ――下に、厳重なロックのかけられた蓋のようなものがある。恐らくはあの蓋の奥に彼の本体であるところの脳神経が、液体に満たされたシリンダーの中に封印されているということなのだろう。


 折角なのでその蓋に向けてナイフを一本放ちつつ――試すだけなら無料ただだ――更に下って、下方から上方へ向けて攻撃をしてくる配線を何本か断ち切る。そして視神経の限界を迎えたタイミングで加速を切り、鉄橋の上に着陸し、次の加速に備えてその上を走っていると、先ほど投げ出したナイフが落下してくるのが見えた。


 相手の魔術による攻撃がランダムなこと自体は依然変わらないものの、逆を言えば相手の行動そのものに変化はない。要するに、物量に物を言わせてひたすら攻撃をして来ているだけであり、こちらの行動パターンを学習して対策を練ってくるなどの変化は見られない。それなら、魔術杖の機能をしている配線の数さえ減っていけば攻撃の手は緩まっていくのであり、こちらは徐々に自由に動き回れるようになってきている。


 中央の柱から断たれた分に対する魔術配線の補填は逐次されてはいるのだが、こちらが破壊している数の方がその補填数よりも多い。このままいけば、ソフィアがより安全にあの蓋の前に移動することもできるようになるだろう。


 そんな調子でしばらく――自分の体感時間では数分だが、ADAMsを起動していない面々からすれば三十秒にも満たないだろう――戦い続け、魔術の密度がかなり薄くなってくる。とくに自分たちが入ってきた上部部分はかなり余裕が出来てきており、手の空き始めたエルは上方から光波を飛ばして下部の配線を攻撃し始めている。


 そしてソフィアが剣閃と共に一気に下降を始め、先ほど見た蓋の上でホバリングし――背から生える炎と氷の翼に、纏う金色の粒子が少女の周りを舞い、その極彩は戦場に舞う天使を思わせる――凛々しい表情で杖を頭上で振り回した。

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