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14-91:愚鈍なる君 中

「今の気配を感じたか!?」

「い、いいえ……上からは何も感じなかったように思いますが……!」


 彼女も攻撃の気配を感じなかったということは、自分だけが呆けていた訳ではなさそうだ。実際の所は次にようになる――確かにこちらへ向けた攻撃的な意志は感じるのだが、それは下から来るものであり、上から来ることに気付けなかったのだ。より正確に言えば、攻撃を命じている意識と攻撃を行っているプログラムの動きが一致していないため、いつものように意志を読んで攻撃の軌道を読むことが出来なくなっているのだ。


 つまるところ、この戦いにおいてはいつものように気配を感じて先行して動くということが封じられているということになる。一応、先ほどのように殺気が増大した時に攻撃が起こるということ自体は予測できそうではあるし、ADAMsを起動すれば魔術の狙いを目視できるかもしれないが、自分は魔法陣を見ただけでどんな魔術が発動するかを認識できるわけではないし、距離を離して安全を確保することくらいしか出来ない――広範囲を攻撃するような魔術であれば陣から距離を取っても無駄からも知れないし、何よりもこの縦長構造というのがADAMsで走り回るのに十分な足場を用意してくれていないとも言える。先ほどの一撃はグロリアの広い視野があってこそ気付けたのであり、直感や経験則で動く自分やクラウディア、エルだけではあのままやられてしまっていた可能性すらある。


 しかし、狙いを定めずに攻撃をすることなど可能なのだろうか。もしも魔術の着弾地点をゴードンが狙ってさえくれていれば、自分はその気配を読むことは出来るはずなのだが――その答えもすぐにわかった。今度は魔術の発動に気付くことが出来たのだが、それは正面からの攻撃だからである。柱から飛び出る配管から煙が飛び出し――あれが魔術杖の役割をしているということなのだろうが――そこから現れた六つの魔法陣が飛び交ったと思うと、それが一つに統合された瞬間、正面から猛烈な業火が噴出してきたのだ。


 それを今度はクラウディアが結界で防いでくれた。これだけの熱量が放出されれば、精密機器には確実に悪影響がありそうなものだ。しかし、何やら柱全体にうっすらと光の膜が張られているようであり、要するにダニエル・ゴードンは本体が納められているこの巨大機械にバリアを常に張っており、魔術による無差別攻撃を行うことで侵入者を倒す、という力技で自らを守ろうとしているということなのだろう。


「あまりゴチャゴチャ考えている暇はなさそうね……こうなったら、さっさと相手を仕留めるに限るわ!」


 エルがアウローラを構え、先ほどクラウディアが指していた地点に向けて剣閃を放つ。翡翠色の光波が狂いなく進んでいき、確かにゴードンの本体があるであろう箇所に到達しようとしたまさにその瞬間、やはり本体を護るようにバリアが展開され、神剣の一撃は柱を傷つけることなく霧散してしまった。


「アランさん、宝珠を!」


 エルの攻撃が無効化されたのを見て、今度は自分が叩きに行く番だと思わず反射で奥歯のスイッチを入れかけるが――思えばこうやっていつも突っ込んでいくから、宝珠を使う機会もなかったのだろう――ソフィアの言葉に加速を中断して、外套から調停者の宝珠を取り出した。すでに三人とも心の準備をしてくれていたのか、宝珠は既に確かな熱を持っている――これならすぐにでも起動できるだろう。


「いくぞ皆……トリニティ・バースト!」

「了解だよ!」

「えぇ!」

「気合入れていきましょう!」


 金色のオーラを纏ったおかげで、いつも以上に身体から力が溢れてくる。そして改めて奥歯を噛んでADAMsを起動して、眼下の一点を睨む。高さ数十メートル毎に連絡橋はあるし、それ以外にも外周の所々に存在する凹凸などを使えば何とか上下の移動は出来なくもないはずだ――以前にキーツの艦隊を相手にした時と比べれば、足場に出来る場所が多くて泣けてくるほどだろう。


 そして、アウローラの一撃を簡単に霧散させてしまうとなれば、投擲程度の火力では及ばないのは当然、タイガーファングや超音速での体当たりなどでは通用しないだろう。なるべく温存しておきたかったが、切り札を切らずに負けてしまうことこそ最も避けるべきことだ。そう思ってバックルに手を掛けた瞬間、脳裏に慌てたような声が聞こえだした。


『アランさん、待ってください! あの柱はキーツの艦隊と同等の機構を有して多層移のバリアを展開しています……つまり、物理攻撃には反物質バリアを展開するので、お得意のキックでは返ってダメージを受けてしまいますよ!

 もちろん、貯めたエネルギーでぶつかれば本体を倒すことは出来るでしょうが……繰り返しですが、ブレイジングタイガーでは威力がありすぎて、月全体にダメージを与えてしまいかねないので、控えて欲しいのです!』

『それじゃあ、アイツが好きにやってるのを手をこまねいて見ていろって言うのか!』

『そうは言っていません。多重位相のバリアなら、ソフィアがグロリアとの合わせ技で破ることも可能……本体は彼女に任せて、アランさんは別の役割を担うべきです。

 幸いにして、魔術杖の役割を果たしている配管の周囲にはバリアが張られていないようです。ですから、アランさんは可能な限り配管を破壊し、ソフィアとグロリアが動きやすい環境を整えるのが良いかと』

『あぁ、了解だ!』


 実際の所、レムの言うことももっともだろう。元々本体を狙うのにはソフィアが適しているとは思っていた訳であるのだが、ADAMsを起動するとどうにも闘争本能が前に出てきてしまうというか、自分が前に出て戦わなければという気持ちが強くなってしまう。

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