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14-83:少女地獄 下

「これと一緒にされるのは心外だとか精神的に来ているだとか、好き勝手に言ってくれたな……貴様らが散々こき下ろした肉の器の手で死んでいくがいい!」


 どこからともなく聞こえる声と共に、シリンダーの外へと飛び出した少女たちが一斉に顔を上げ、それぞれ違う美しい顔に同じような歪んだ笑みを浮かべ、そして一斉にこちらへ襲い掛かってきた。


 正確にはこの場に保管されていた器のうち全てが、という訳ではなく、ガラスを破ってきたのは全体の半分にも満たない位程度だろうか。それでも数としては圧倒的なことには変わりなく、ざっと見て百以上の敵対者がこちらへ向けて襲い掛かってくることになる。


 ひとまず、自分の方へと向かってきた十体ほどの器たちに向けて精霊弓を向け、矢を放つ――もしアレがチェンのようなサイオニックで操っているだけなら、一体一体は大した動きはしないはずだ。


 しかし、その読みは完全に外れた。少女たちが歪な笑みを浮かべた時に気付くべきだったのだが、少女たちは手をかざして結界を張り、こちらの攻撃を防いできたからだ。このままでは圧殺される――そう思った時にはADAMsを起動しており、自分は襲い掛かってきているルーナの器たちから距離を取るように移動し、横から再び波動砲を撃ち込む。


 驚くべきことに、ルーナの器達はこちらの音速を超える速度にすら反応して見せ、腕だけ回して結界を張り、こちらの攻撃を防いで見せた。恐らく、例のデイビッド・クラークが使っていたという防御プログラムが全ての器に適用されており、攻撃を自動的に防ごうとするようになっているということなのだろう。


 これだけの防御力の個体が何体も居るとなればかなり手ごわいが――こうなっては一度仲間たちに合流したほうが良いだろう。今の位置の方が自由に動き回れるし、合流すれば敵に囲まれるというリスクも大きくはあるが、それよりはこの厄介な敵を倒すために体勢を立て直す方が優先度は高い。


 ADAMsを起動したまま味方の方へと向かって行く途中、道すがらに居た一体に向けて精霊弓を放つ。その一撃は当然の如く結界によって防がれるが、逆を言えばこちらの攻撃を防ぐのにルーナの器は腕を前に出さなければならない。それを見越してすれ違いざまにヒートホークを取り出して細い首を目掛けて振り抜くと、確かな手ごたえを感じ――仲間たちの元に合流してADAMsを解除して見ると、先ほどすれ違った一体の首を飛ばすことには成功したようだった。


 無敵でないことは証明されたわけだが、依然として幾つも課題はある。それは、一体ですら倒すのにも非情なエネルギーが必要ということ。並の第五世代型ならば百体同時に襲ってきても今の自分たちならば対処できるだろう。しかし精霊弓すら弾くほどの防御力を持っているとなれば、そのバリアを貫通できるほどの火力はセブンスのラグナロクを除けばコンスタントに出すのは難しい。


 一応、一体一体の動きは、火口で戦ったセレナの個体や海と月の塔で戦った個体と比べて緩慢なようだが、それでもこれだけの数が居れば、以前に対峙した二体の器よりも厄介なことは明白だ。他のメンバーも同様なのか、セブンスは自らが倒して炭化した器を見下ろしながら狼狽した様子でチェンの方を見ている。


「こ、これはどういうことなんでしょう!?」

「本来、一つの肉体に一つの精神が原則です。そうなれば、人格の転写は一つの器に収まるもの。そうなれば、アレは私が以前に人形を動かしていたように、サイオニックで操っていると考えるのが妥当な所なのですが……先ほどの理論では、いずれの個体も神聖魔法を使ってくることの説明がつきませんね」

「ははは! 妾はそんなくだらぬルールは超越したのじゃ! これは全てを超越する者が有する、絶対的な力なのじゃから!」


 どこからともなく、ローザの高笑いが響く――今の口ぶりから察するに、ローザはこの数日間で何かしら新たな力を得たということになるのだろう。そしてそれは恐らく、星右京から与えられたものであり――それを絶対的な力と豪語するのはいかがなものかとも思うが――高次元存在の力の一部を流用し、多くの器を並行的に扱えるようになったのかもしれない。


「追い詰められて諦めるのは貴様の方じゃぞ、チェン・ジュンダー! まずはここで長きに渡る因縁に決着をつけ、その後はこの力で右京の奴をくびり殺してくれる……往くぞ、突撃体制!」


 スピーカーから声が聞こえて後、自分たちを取り囲む器たちが一斉に構えを取り、そしてその身体に淡い光を宿す。これがローザの最も得意とする戦術。兵隊を混然一体と指揮し、同時に波状攻撃を仕掛ける――レヴァルでの一戦以来めっきり使っていなかったが、それはこの戦術を取るのに強力な兵隊が居なかったからであり、本来はこの戦い方がローザの強さをもっとも引き出す戦術といえるだろう。


 こんな風に冷静に分析している暇もない。こちらも改めて体制を立て直さなければならないのだから。ただ、ブラッドベリがいち早く動き、黒い球体を目の前に作り上げ、そしてそれを太い腕で薙ぎ払い――漆黒の衝撃波が弾け、自分たちを護るようにして辺りの器たちを弾き飛ばした。


 もちろん、一体一体が七星結界を張れることを想定すれば、デストラクションストリームですら必殺の一撃にはならないが――ひとまず、敵の突撃を止めるだけの時間を稼ぐことには成功した。


「ユメノ、今だ!」

「はい! トリニティ・バースト、発動!」


 ブラッドベリが作った隙をついて、セブンスは調整者の宝珠を点に掲げた。自分たちの体を金色の光が覆い、体の底より力が湧き上がってくるのだった。

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