表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
933/992

14-80:瓶詰の少女達 中

「なんとなくですが……イヤな予感がするんです。この先から、何か邪悪な気配を感じる……怒りと憎しみに溢れていると言いますか、同時に攻撃的といいますか……全てを破壊してやるっていう、そんな意識が流れてきている気がするんです」

「……と、言うことです。私たちの最後の戦いは、決して楽な物にならないと考えるのが妥当でしょう」


 セブンスの言葉を聞いて、チェンはあっけらかんとした調子で自分やブラッドベリの方へ振り返った。それは超高性能コンピューターのレムと、一万年の時を超えて戦い続けた軍師チェン・ジュンダーの予測よりも、セブンスの直感を信じろと言わんばかりの態度だった。


「根拠のない直感を信じるのだな」

「いえ、セブンスがそう感じる、それだけで十分な根拠です。我らが准将殿曰く、経験則も何度も当たればそれなりの確度を誇る……何より、下手な慢心で窮地に陥るよりは余程いい。

 実際、彼方と此方の境界に触れた者たちの感覚は、かなりの精度を誇る……少なくとも、ローザ・オールディスは我々を迎撃して撃破するだけの自信のある奥の手があるのは間違いないでしょう。

 それも、先日あれだけ追い詰められたのに、セブンスが感じているような敵意を持てるということは、少なくとも我々に見せた手の内に毛の生えた程度の物ではないということは確実です」


 チェンはそこで言葉を切り、自分たちよりも一足先に進んで一つの大きな扉の前で立ち止まった。そして長い袖の中に両腕を隠しながら、その細い目で扉を睨んで口元を引き締める。


「鬼が出るか蛇が出るか……その答えはこの先にあります。T3、セブンス、魔王様……準備はよろしいですか?」


 セブンスが一歩前へと出て、男の言葉に対して頷き返す。


「はい、行きましょう。旧世界から続く悲劇を……偽りの神々が創り出した神話を終わらせるために。皆さん、どうか私に力を貸してください。そして……」


 少女は言葉を切り、自分とブラッドベリの方へと振り返り、長い髪を揺らしながら一度大きく頭を下げ、そして再び顔を上げて真剣な面持ちでこちらを見てきた。


「皆さんの背中は私が守ります。ですから、どうか……皆さんも私の背中を守ってください。そして、必ずみんなで生き残って、アランさんに合流しましょう」

「……あぁ、そうだな」


 少女の言葉に、いつかの日に魔王との決戦に臨んだ時のことを思い出す――その魔王が今はこちら側に居るというのは皮肉な感じもするし、アラン・スミスと合流するのにという点については同意をする気はないのだが、その他のことに関しては異論はない。


 だから曖昧に――部分的には同意だという意味合いを込めて――返事をしたつもりだったのだが、何事にもプラス思考の少女は満足したように頷き返し、その身の丈に合わない巨剣で目の前の扉を両断した。


 そしてセブンスが先導する形でローザ・オールディスの居城に足を踏み入れる。とはいえ、その様相は外の通路とそう大きな違いはなく、またしばらく通路が続いていた。


 両端の壁にはいくつかの扉があるが、それらを無視して前進を続ける。ローザの本体は彼女の居城の最奥にあり、様々なセキュリティによって守られているという予測に従っての前進ではあるのだが、警戒していたようなトラップは存在せず――本当はあったのだが起動していないという方が正しいのかもしれないが――ただ誘いこまれるように通路の突き当りにある機械仕掛けの扉まで辿り着いた。


 再びセブンスがその扉を両断すると、その奥には一層広い空間があった。高さは何十メートルもあろうか、天井には真っ白いタイルがどこまでも続いており、不思議な圧迫感を感じる。異様なのはむしろ床面積とそこにある光景であり、天井の高さに負けないほど広い、数百メートル四方の広大な空間に、何百、下手をすれば何千ものガラスシリンダーが立ち並んでいた。


 シリンダーの大きさは、一本当たり直径一メートルほど、高さは天井に届くほど長い――恐らく床や天井から配線をつないでおり、内部の液体を絶えず流動させ、シリンダーの周辺装置を管理し、その内部にあるものを保存し続けているのだろう。


 肝心の中身は、予測は出来ていたので驚きもしないが、同時にあまり趣味の良い物とは言えなかった。薄い布で身体を覆っている少女の肢体が、液体の中に浮かんでいるのだ。右を見ても左を見ても少女少女少女――まさしく少女地獄とでも言うべき光景が広がっている。外見は一様でなく、髪の長いもの、短いもの、髪色は黒いもの、白いもの、金色のもの。身長の高いもの、低いものなど、まったく同じ個体は存在しない。だが多様性があるとは言い難く、たとえば恰幅の良いものはいないし、年齢はみな一様に若く――下手をすれば幼いとすら言える――端的に言い表せば、おおよそ「見目麗しい少女」という点では一致していた。


 要するに、ここはローザ・オールディスの衣裳部屋なのだ。自らの着替えのためにアレコレと用意した素体達をこの場に保存しているということになるのだろうが――意識のない少女の身体が無数に液体に浮かんでいる光景というのは、単純に気味が悪いものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ