14-79:瓶詰の少女達 上
アラン・スミス達と別れた後、自分たちはローザ・オールディスの待ち構える領域へと向かって足を進めていた。既に道中の襲撃はほとんどなくなっているものの、それでも散発的に第五世代による攻撃があり、それらは自分とセブンスが迎撃に当たっている。
月内の熱帯雨林を超え、管理地区を通過し、再び通路を移動することになったタイミングで、また第五世代たちの襲撃が増加した。とはいっても、ノーチラスから降りた時と比べればその数はかなり減っており、こちらもセブンスと二人で戦えば事足りる程度のものではある。
「……ゲンブ、ルーナの動きをどう見る?」
襲撃が一段落したタイミング、ローザ・オールディスの居城が近くなってきたタイミングで、魔王は隣を歩く糸目の男にそう尋ねた。二人の背後からはガチャガチャと音が聞こえて――自分とセブンスが毛散らしたアンドロイドたちをチェンの布袋戯が超えるときに掠れる音であり、長距離の移動を想定されていたため連れてきたのは六体ほど、三体ずつチェンとブラッドベリがサイオニックで運んでいるようだ――少々煩いのだが、チェンは良く響く声で返答してくるので聞き取るには支障はない。
「想定される動きとしては、持ちうる最強の個体に意識を転写し、彼女本来の能力である第五世代型の強化で人海戦術を仕掛けてくる、といったところかとは思います。
そうなると、主に注意すべき点は二つ。一つはローザ・オールディスの宿る素体がどの程度のものか……火口や塔で戦った素体と同程度の実力であるのならば、タイタンの妖女を含めて対抗できるだけの実力はこちらにも十二分にあるとは思いますが、あれらを上回る素体があるとするのなら楽観はできません。
もう一つは、ルシフェルがあと何体居るのか……同時運用は三体が限界のようですが、それでも無尽蔵に出現されてはかなり不利な戦いになるでしょう。とはいえ、恐らくそう多くは量産されていないとは思われます」
「ほう、何故だ?」
「単純に、星右京やダニエル・ゴードンが熾天使の量産を認めなかっただろうということです。少々間抜けな点も目立ってこそいましたが、天使長ルシフェルは戦力としては一級品なことは間違いない。それが他の第五世代と同等レベルで量産されているとなれば、七柱自体のパワーバランスが崩壊しかねませんから」
他にも単純に、アレだけの性能の機体を一年間で量産するのは技術的な問題もあるだろうとチェンは付け加えた。気が付くと、いつの間にか隣にいたはずのセブンスが居ない――独自に敵の迎撃を行っていたようだが、敵の襲撃が落ち着いたタイミングで二人の方へ合流したようで、振り返ってみるとチェンの横で首を傾げていた。
「えぇっと、つまり……どういうことになるんでしょう?」
「大方私の予想通りなら十分に制圧は出来るし、最悪のケースを……それこそルーナの隠し玉が想像を超えるものであれば、厳しい戦いを強いられる、ということです。ただし、状況から見ればやや楽観的に考えられるとは言えます。
その根拠は、海と月の塔の攻略に現れています。彼らにはこの人工の月という最後の砦があったにせよ、海と月の塔の制御、ひいては深海のモノリスのコントロールは、本来は高次元存在を降ろすのに絶対条件として考えていたはずです。
星右京が博打として放ったウイルスという切り札があったものの、それは本来のやり方ではなかったはず……つまり、先の闘いにおいて、七柱側も持てる総力を凡そつぎ込んだと想定されます。
もちろん、自己の保身にも最大の労力を払う必要はあるのであり、ローザ・オールディスの素体は先日戦った者よりも上等な物が残っていることは考えられますが、それでも恐らくこの前のは二番目の素体で来たのでしょうし、一位とそう大きな違いはないでしょう……というのが、私とレムの出した結論です」
「なるほどぉ……お二人が出した答えなら、きっとその可能性が高いんでしょうね」
「……本当に、そうだと思いますか?」
チェンの質問に対し、セブンスは困惑したように――敵の気配も無くなっているので、自分も三人の居る場所まで下がっているので彼女の顔も見える――眉をひそめた。
「え、えぇっと……?」
「私はアナタの意見を聞きたいのです、セブンス。正確には意見というより、貴女の直感に伺いを立てたい。貴女が高次元存在より授けられているのは未来視ではないとのことでしたが、それでもこの先に渦巻く意志の力を感じ取ることは出来るはずです。
それに、恐らくですが……貴女は何かイヤな予感がしたからこそ、状況の詳細を聞こうとしたのではありませんか?」
チェンの質問に対し、セブンスは図星を突かれたように押し黙り――そして目を瞑って胸に手を置き、「はい」と小さく頷き返す。




