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14-78:月の内側 下

「アランさんの身体って大丈夫なんですか? その……サイボーグ体との融合を果たしたというのは理解しているのですが、それが将来的に悪影響を及ぼしたりはしないのかなと思いまして」

「正確なことは確約しかねますが、問題ないと推測しています。むしろ、時間が経てば経つほど、アランさんの力は失われていく可能性が高いです」


 レムが言うには、次のようなことらしい。自分の体を構成する有機機械部分は、細胞の分裂や再構築を繰り返している間に、徐々にだがその数を減らしていっている――要するに、本来の人間としての細胞に戻っていっているということらしかった。今のところはその進行が緩やかであり、サイボーグであった時と変わらない調子でADAMsを使えるが、その数が減っていけば普通の人間に――強いてを言えばジャド・リッチーの亡骸を利用して再構成したクローン体に――近づいていくとのことだった。


 ただし、再構成された細胞に関して、それらは完全な有機体に変化していく中で、以前の機械部分の特性を引き継ぐ可能性もあり得なくはないようだ。そうなれば今のような戦闘力を有しながらも、普通の人間のように暮らすことも不可能ではない、ということらしい。


 サイボーグとしての特性が失われるとしても残るとしても、以前のように細胞に拒絶反応は無くなっているので、レムによる再生魔法がなくても――今は折角なのでお守り代わり兼はげしい戦闘用にかけ続けてくれているようだがが――問題は無くなっているようだ。


 自分は戦闘をしながらなので、ソフィアたちに語っている内容を音で聞いたわけではなく、気になるだろうからとレムがこちらの脳に共有してくれた形だ。そして再度敵たちを殲滅し終えたタイミングで少女たちの元へと戻って加速を切り、「へぇ、そんな感じだったんだな」と伝えると、グロリアから「アナタはもう少しその辺りのことには関心を持っておきなさいよ……自分のことなんだから」と呆れた声を返されたのだった。


 さて、そんな調子で進んでいくと、ある箇所を境に妨害の手が一気に減り始めた。それは全体の半分の行程を進んだ地点、管理区と言われる地点に足を踏み入れてからのことだった。そこは七柱の創造神たちの居城と隣接する区間ではあるが、広大な敷地を有している区間であり、そのためにまだ行程としては全体の半分くらいになる。


 管理区の大半は通路ではなく、拓けた空間だった。旧世界の種を保全するための区域であり――保全対象は動物だけでなく植物も含まれるで、面積だけでなく木々が成長できるだけの高さも兼ね揃えている――今いる場所は旧世界における温帯の原生林であった。


 敵の手が落ち着いたのは、恐らく以下二つの理由があるのだろうとはレムの意見。すなわち、単純にこの一帯の地域の警護に回してた第五世代型達が打ち止めになりつつあるということ、そしてもう一つが保全地域で戦闘をすると、折角守ってきたこの区域の貴重な種たちに危険が及ぶのを避けているのだろうとのことだった。もちろん、宇宙の趨勢を決するこの一戦において、右京側に変な手心があるとは思い難いので、むしろ理由は前者の方が濃厚であるとのことだった。


 ただ、全く敵の手が無くなったという訳でもない。とくに遮蔽物の多いこの場所においては、第五世代型本来のステルスが脅威になりうる――その気配を完全に感知できるのは自分とクラウディア、ナナコの三名のみであり、エルとT3は優れた観察眼からほとんど正確にその位置を把握できるが、ソフィア、チェン、ブラッドベリの三名は迷彩を完全に見切ることは不可能。そうなれば依然として第五世代の脅威はあり、かつ自分の能力を最大限に活用できる場所でもある。


 そのため、自分が進行方向にいる第五世代型達を先んじて排除し、残りのメンバーはその後から着いてくる、という構図が自然と出来上がる。敵の数が少なければ、自分一人で殲滅しながら進むことも不可能ではない。作戦開始前にレムに「月に着いてから暴れてもらいます」の面目躍如といったところだろう。


 補足として、保存されている動物たちに関しては、可能な限りその生態系を破壊せずに進むことにしている。第五世代型達の攻撃に巻き込まれることについてはその限りではないが――また、虫や蜘蛛など小さな毒性の生物が仲間たちの方へ近づく場合には、その気配を察せるクラウディアが注意をしてくれていた。


 ただし、森林の中に広葉樹をぶち抜くほどほどの巨大な恐竜が居たことには驚きが隠せなかった。レム曰く、折角だから再現したみたとのことではあったが――あんなのがいたら生態系など破壊されてしまいそうだが、そこは上手く恐竜の移動範囲を調整することで周囲の生体には影響が出ないようにコントロールしているらしい。なお、再現した恐竜は魔術を妨害するような知能を有しているわけではないので、ソフィアが扱う眠りの魔術で――そんな魔術まであったことは初めて知ったが――簡単に眠りについてくれた。


 ともかく、敵の数は減ったので、移動速度はここにきて飛躍的に向上した。全行程の約三割進むのに一時間かかっていたのに対し、そこから全体の八割まで到達するのには三十分と掛からず、今は惑星レムを出発してからちょうど二時間が経過したところだ。


 そしてちょうどその地点において、ここからは予定通りに二手に分かれる運びとなった。未だに第五世代型達の襲撃は散発的にあるものの、別れるメンバーの中でもナナコとT3が対応できるし、チェンとブラッドベリにおいてもその防御力は折り紙つきであり、心配するには及ばないだろう。


「それじゃあ、また後でな……頼んだぜ、ナナコ」


 標識のある森林の分かれ道でナナコに対してそう言うと、銀髪の少女は背筋をピンと正し、大真面目な表情で敬礼した。


「はい! 誰一人欠けることなく……みんな生きて合流しましょう! 必ず!」


 そこまで言って敬礼を解き、ナナコはポニーテールを揺らしながら振り返り、屈強な男たちが待つ方へと歩いて行った。自分も振り返り、少女たちが待つ方へと歩みを進め、自分達の戦いの場へと――魔術神アルジャーノンの本体、ダニエル・ゴードンの根城へと足を勧めたのだった。

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