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14-77:月の内側 中

「しかし、伝説級の暗殺者である貴方が、こうも力押しで進まざるを得ないというのも、歯痒いんじゃないですか?」


 隔壁を開けるために端末を操作しているチェンが、出し抜けにそう語り掛けてくる。


「スマートじゃないのは認めるが、こうも単調な通路にこれだけ敵が密集してりゃ、スニーキングもくそもない……目的はあくまでもターゲットであり、潜入はそのための手段でしかない。

 それにお前さんも知っての通り、潜入工作は時間がかかる。こうやって暴れるのが早いって言うのが一番手っ取り早いって言うのなら、それもやぶさかじゃないさ」


 実際、旧世界においてスニーキングミッションをこなしていたのは、襲撃を見破られてターゲットに逃げられないようにするというのが一番の理由である。次点で、当初の構想では第五世代型を同時に何体も相手にするのは物理的に厳しいと――それをADAMsで無理やりぶつかるという荒業で解決してきた訳だが――想定されていたからであり、別に自分としては潜入そのものが目的だったのではないのだ。


 ただ、スニーキングに関しては懐かしさを覚える部分もある。息を潜め、音を殺し、監視カメラや赤外線の穴を潜り抜け、諸々のセンサーを持つアンドロイドすら欺き、目的地まで進み続ける――そこに対してある種のスリルを覚えていなかったといえば嘘になる。


 しかし、潜入を懐かしく思うのは、どちらかといえば精神的な高揚だけでなく、それが元来自分にとっては数少ない仲間との協力作業だったという点に起因するように思う。荒事は自分の仕事であるが、潜入する場所の構造の把握や障壁の突破、そのための綿密な事前準備など、べスターや右京と連携し、困難を乗り越えるという確かな充実感はあった。その目的がターゲットの暗殺というのは理不尽な暴力でしかない訳だが、それでも仲間と共に一つの目標に向かって行くという不思議な一体感があった。きっとこの旧懐の念は、そういった想い出が自分の胸にあることが原因なのだろう。


 惑星レムでも何度か自分一人での潜入工作はあったが、原始的な装備しか持たない――こういう言い方も失礼かもしれないが、事実としてそうであった――人や魔族などの第六世代型を相手に潜入するのは、旧世界での困難さを考えれば赤子の手を捻るようなものであった。それこそ、シンイチが――右京が――魔王城へ向かう道を調査させたのは、自分になら魔族相手の斥候など簡単に出来るという信頼と判断があったからに違いない。


 ともかく、現状では身を隠して進むというのは非効率であるし、スニーキングが趣味ですと言うほど拗らせていないつもりだ。それに、今は今で充足している。実際に共に戦場に立ち、肩を並べて戦ってくれる仲間が居るというのは以前にはないことであり、同時に背中を守ってもらえるという安心感があるからだ。


 少々面白かったのは、ソフィアが唇を尖らせながら着いてきているという点だ。彼女の不満の理由は、月の内部に入ってからは役所やくどころが無いから、というものだった。もちろん、彼女が本気を出せば、高い機動力と殲滅力を誇り、更には一人で――正確には一つの体に二つの魂で――攻撃魔術に回復魔術、補助魔術、妨害魔術を使いこなす万能さがあるのは誰も疑うところはないのだが、逆を言えば彼女の強さはリソースの使用と表裏一体になる。


「……それに、こんな狭い通路で魔術を使ってちゃ、それこそ誰かが巻き添えを食うわよ?」

「むぅ……でも、以前はアランさんの手を煩わせることは無かったから……」


 少女の右肩に優雅に留まっているグロリアに対し、ソフィアはそう不満そうに漏らした。要するに、今は立場が逆転しているのが彼女としては面白くないのだろう。奥にいる十体の第五世代達を倒し、戻って来て加速を切ると、ソフィアの隣に並んで歩いているクラウディアがソフィアの左肩を叩いた。


「良いじゃないですか、ソフィアちゃん。アラン君だって以前は私たちに任せっきりで申し訳なく思ってたのを、ADAMs使いたい放題になってお返しできるとか思ってるんですから。私たちは優雅に、ノンビリさせてもらいましょうって」


 そう言われるとお前は働けとは言いたくなるが、実際は彼女の言う通り。それに、小夜啼鳥の二人とクラウディアは、月の内部に侵入するまでにかなり無茶をしてくれたのであり、その労力に報いたいという気持ちもある。


 グロリアとクラウディアに諭されて幾分か納得してくれたのか、ソフィアは「そうだね」と小さく頷いた。その後はクラウディアの肩に留まっているレムに視線を向け、「そう言えば」と切り出す。

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