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14-73:一二〇XX年宇宙の旅 下

「あそこに隠れた反射衛星があったのね」

「正確に言えば、あそこには元々何もなかったんですよ。突如として、ある一基の衛星があの位置に突如として現れたのです」

「つまり、その気になれば星右京は好きな場所に反射衛星を瞬間移動できるってこと!? それじゃあ、安全な場所なんかないじゃない!」


 ジブリールが慌てた様子で口早にそうまくしたてると、レムは静かに首を振った。


「確かにアナタの言う通りでもありますが、こちらが一定の距離に近づけば向こうもマルドゥークゲイザーを撃てなくなります。そうなれば、再装填をしている間に船速を上げて突っ切るべきですね……シモン」

「合点だ!」

「しかし、仮に今の一撃を許していたとしても、クラウディアの結界があればもう一撃は耐えられたでしょうが……そうなれば残る敵艦の攻撃に耐えきれなかったかもしれませんから、アランさんのお手柄ですね」


 レムはこちらにウィンクして、すぐに窓の外へと向き直った。隣からエルに「まさか気配を感じたの?」と聞かれたが、そこに関しては「そうだ」と返しておいた。実際の所は本当に直感だ――ただ、これくらいの動きは必ずアイツも読んでいるはずであり、そうなれば想定外の一撃は必ず仕込んでいるだろうという奇妙な信頼があってのことでもある。


 本来なら意志を持たない衛星の位置など分かるはずもないのだが、その奇妙な信頼のおかげで、恐らく何万キロも離れた位置にいる右京の意識を僅かながらに読めたということなのだろう。


 ともかくノーチラスの船体が大きく揺れ出し、再び船内に強烈なGが掛かる。船が猛烈に加速し――しかしこれでも宇宙空間で出せる最大船速ではないらしい――艦は真っすぐに月へと向かって更なる前進を始める。前面に残っているであろう第二並びに第四艦隊の攻撃だろうか、前面で何かが閃いたかと思うと、先ほど宇宙に上がった瞬間にマルドゥークゲイザーを受けた時のような光と音が艦内を襲う。しかし、それらは事前に張られていた桜色の結界が阻んでくれたおかげで直接的なダメージを受けることは無かった。


 ノーチラス号は先ほどナナコが切り拓いた道を突き進み、そして振動と光の明滅が収まった瞬間、宇宙艦隊群の間をすり抜け――ADAMsを起動していないので目視はできなかったが、目の前のスクリーンに映し出されているレーダーからそう判断した――敵艦隊の防衛網を突破したようだった。


 とはいえ、まだ安心できる状況ではない。先ほど主力を蹴散らした艦隊が直ちに旋回し、その他の地点を防衛していた艦隊もこちらへ向かってきており、それらがノーチラスに向けて攻撃を仕掛けてきている。ただし、それらの攻撃は実弾か威力を抑えた光学兵器である。あまり高威力の攻撃を防衛網を突破したこちらに仕掛けると、月にダメージが入ってしまうせいで、向こうも出力を抑えざるを得ないのだ。


 何より、集中砲火されているのは変わりない。ノーチラス自前のバリアで光学兵器の類を防ぎつつ、同時に実弾はジブリールがコントロールする迎撃ミサイルやデコイで実弾を落としているようではあるが、そのすべてを防ぎきれる訳ではなく、艦は敵の攻撃で激しく揺れながらもどんどんと月の表面に近づいていく。


 しかし、月が近づいて来てもほとんど減速する気配を見せておらず――窓の外が月一杯になっても速度を落とす気配はない。このままでは音速ですら生易しい速度で月の地表に激突することになる。そうなれば艦体は木っ端みじん所の騒ぎではすまないだろう。


「おい、減速しなくて大丈夫か!?」

「大丈夫です、代わりに椅子から動かないようにしてください!」


 珍しくイスラーフィールが大きな声を張り上げ、言われた通りに椅子に深く腰かけると、前面に青いバリアが――よく見るとそのバリアは小さな正六角形が敷き詰められている――展開され、今度は身体が目の前に吹き飛ばされるんじゃないかと思うような衝撃が走った。人工の月がこちらの侵入を防ごうとバリアを張っており、それがこちらのバリアと衝突し、互いの斥力が働いてノーチラスの勢いが一気に相殺されたのだ。


 二つの力場がせめぎ合う光と音で、また艦内はもみくちゃにされる。


「……バリアはバリアで中和します!」


 イスラフィールがそう吠えると、徐々にバリアを形成している六角形が崩れていき――こちらのバリアがもたなくなっているのか、そう一瞬固唾を呑んだが、しかし彼女が言ったように中和されたという方が正しいようであり、ガラスが割れたようなけたたましい音が響いて後、窓の外にはこちらのバリアも月のバリアも一部分が消滅したようだった。


 ノーチラスはそのままゆっくりと――とはいえ先ほどと比べて相対的に遅いというだけで、恐らく速度的には結構早い――割れたバリアの内部へと侵入した。


「古代人のモノリスはまだ健在ですが、機関部がオーバーヒートを起こしかけています……これ以上はクラウディア・アリギエーリの物も含めて、バリア装置を展開することはできませんね」

「ただ、ここまで来れれば後は地表の迎撃装置さえ抑えられれば……と、迎撃ミサイルの第一群、来るわよ!」


 前のスクリーンを見ていると、ノーチラスを中心とするセンサーに、確かに幾つもの小さな点がこちらへ向かって近づいてきているのが確認できた。しかし、もうバリアを展開できないのにどうするつもりなのか。あの数ではノーチラス側のデコイでも相殺しきらないのではないか――そう思っていると、隣に腰かけていたチェンと、対面に腰かけていたブラッドベリが互いに頷き合った。

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