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14-71:一二〇XX年宇宙の旅 上

「マルドゥークゲイザーの起動を確認。着弾予測、三十秒後……クラウディア・アリギエーリ、バリアの準備をお願いします」

「よっしゃ、任せてください!」


 スピーカーから元気な返答が聞こえるのに合わせ、艦の外に今度は桜色のバリアが張られる。その数秒後に、月から一条の光が発射された。その光はただちにこちらへ直進してきておらず――というのを目視した直後、強烈な閃光が横から艦を呑み込むようにぶつかってきた。宇宙空間に漂うリフレクターで反射され、この一帯の宙域を丸ごと狙い撃ってきたのだ。


 宇宙空間であるため、外からの音や衝撃は無いが、その凄まじい威力は確実に艦を揺らし――七聖結界を凌ぐほどの強力なバリアをもってしても――壁や床、艦内の空気が激しく振動し、内部では恐ろしい音が鳴り響いている。外は極彩色に光が明滅している。


 この世の終わりかと思うほどの事態に対し、自分はただ歯を食いしばって見守ることしかできないが、大丈夫だ。二人の熾天使が――光と音でほとんど何をしているかは確認できないが――変わらず懸命に作業をしてくれているし、クラウディア・アリギエーリの織り成す八重の結界が必ず自分たちを護ってくれると信じている。


 永久と思えるほどにノーチラスは光に揺らされ、しかしようやっと光の軛から解放されると、宇宙空間には割られた結界の後が花びらの様に舞い散っていた。平衡感覚も耳も少々いかれているが、ともかく何とか一射目は耐え凌ぐことに成功したようだった。


「……すいません、今のが連発で来たら耐えられそうにありません!」


 スピーカーの奥から、息も絶え絶えのクラウディアの声が聞こえ始める。動力であるモノリスに限界があるのか、それとも彼女の精神力の消耗が激しいのか。恐らくその両方だろう。こちらも既に移動を開始しているし、月の側も砲身の角度や衛星の位置調整が必要になるだろうから、二射目を発射するには少し時間が掛かるはず。そして、作戦通りにやるとすれば――。


「大丈夫です、二射目は撃たせません……ジブリール!」

「照準セット……目標、反射衛星! 艦首ミサイル!」


 ジブリールが目の前にある端末を作った拳の小指側で叩くと、艦の外の斜め前方からミサイルが撃ちだされる。それは艦首から巨大な火柱を巻き上げ、惑星レムの軌道上を凄まじい速度で飛んでいき、ややあってから遥かの遠方でパっと光が上がった。


「反射衛星への着弾を確認。一基の破壊に成功しました。あとは、予定通りにオールディスの月へと航路をとります」

「はい、よしなに」


 イスラーフィールの言葉に対し、応えたのは先ほどの音と閃光で動けなくなっているシモンではなく、その背後で両手を合わせて佇んでいるレムだった。ただ、シモンも艦長としての面目を取り戻そうと気を取り直し、すぐに姿勢を戻して


 その後、船は凄まじい速度で航行を続け――航行自体は静かなので実感は沸きにくいのだが、見える星々の位置の変わる速度からその速さが伺える――すでに自分たちが居た星は視界から消え去った。


「そろそろ、先方へ月をとらえるわ。クラウディア・アリギエーリ、そちらは?」

「強壮剤を一本入れて気合を入れなおしました! 古代人のモノリスも落ち着いたみたいです!」

「それじゃあ、アナタは引き続き動力室で待機。基本的にはノーチラスの自前のバリアで対処するけれど、強力な一撃が来るときには指示を出すわ」

「了解です!」


 クラウディアとジブリールのやり取りが終わると、今度はイスラ―フィールがマイクへ顔を近づける。


「セブンス、そろそろ貴女の出番です……そっちの準備は大丈夫ですか?」


 イスラーフィールが声を掛けると、前方の窓の一部分がスクリーンとなり、艦の内部の映像が映し出される。そこにはナナコが巨大な剣を壁から突き出す筒状の機械の真ん中に――その筒は巨大であり、ちょうどナナコの背丈の倍近くある――突き刺して、柄を強く握っているのが見えた。彼女の持つ剣は以前にも増して機械感が強い為、最初から艦の一部であったと錯覚するほど馴染んでいるとも言えるが、同時にそれを長い銀髪の少女が握っているという光景はなんだかおかしなもののように見える。


 そんな不思議な光景に彼女自身が困惑しているのか、ナナコは声のしたほうへと首を回し、困ったように眉をひそめていた。


「あのぉ、自分で剣を振らないと、なかなかタイミングを掴みにくいと言いますか……」

「四の五の言わないでください。貴女は、私のイージスを破壊して見せたのです……その力、信じますよ。発射のタイミングは追って指示します。貴女も私を信じてください」

「イスラーフィール……うん、了解です!」


 ナナコは右手を柄から話して敬礼のポーズを取り、すぐに剣の柄を握りなおした。そしてカメラが少し動き、部屋の中で二つ並びの椅子の片方に座っている銀髪の男がスクリーンに映し出される。


「放射角の調整はアナタに任せますよ、T3」

「任せておけ」


 男は仏頂面のままイスラーフィールの声に頷き、目の前にある一本のレバーを握りながら目の前のモニターを睨み始めた。そのレバーにはトリガーが付いており、動かすと男の前にあるモニターに動きがある。アレで砲身の角度を調整し、同時にトリガーを引くことでナナコ砲を発射する仕掛けなのだろう。

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