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14-70:旗手として 下

 いろいろと考えると、自分もここで座して待っていても全く問題ない気がしてきた。レムのシミュレーションの数値こそ芳しくなかったものの、数字を跳ね返せるだけの要素は揃っていると言える。冷静に状況を見れば悲観的なことなど一切ないのだ。


 そう思い直し、自分もブラッドベリと同様に腕を組み、不敵な笑顔に努めて、冷静に状況を思い起こさせてくれたことに礼をすることにする。


「サンキューな。少し落ち着いたぜ」

「勘違いするな。同じ場に落ち着きのないものが居るのが耐えられなかっただけだ」


 口では皮肉を言っているが、ブラッドベリの表情は柔らかい。あぁ言えばこういう感じはT3に似ているところがあるが、生真面目で全部本気のアイツと比べて、魔王ブラッドベリは大人の余裕があると言えるだろう。いや、T3の年齢だって結構なものだし、この辺りは器の差か――T3が狭量という訳でなく、ブラッドベリには王の器があるという差で在り、それは個人の資質の問題で、どちらが正しいという訳でもないとは思うが。


 そして丁度話が終わったタイミングでエルが来て自分の隣に座り、ついでチェンがブリッジに入ってきて、そこからやや遅れて――作戦開始時刻のギリギリで――シモンが飛び込んできた。恐らく想定よりも寝てしまったことに焦ってきたのだろう、シモンは息を切らしながら中央の椅子に腰かけ、そして最後にブリッジの中央にホログラムの女神が姿を現した。


「さて、皆さん揃いましたね。以前はチェンのありがたい檄がありましたが、今回は少しの時間も惜しいですから……すぐにでも出発いたしますよ」


 レムの言葉に二人の熾天使が頷き、彼女たちが手元を素早く動かし始めると、ノーチラス号は垂直に浮上し始める。地下ドックから完全に抜け出した後、しばらく空を直進する。そして船首の角度を上方へと向けるのに合わせて、椅子が回って正面へと固定され、イスラーフィールが「これより大気圏を離脱するために加速するので、皆さん椅子から動かないように」とアナウンスがなされた。


 アナウンスが終わってややあって――他の場所にいる者たちの安全確認が済んだのだろう――艦の外では青白いバリアが展開され、その後に一気に加速をし始めた。けたたましい音が外から響き渡り、同時に強力なGが身体に掛かり、椅子の背に内臓が引っ付くのではないかと思うほどの加速だ。自分はこれよりも早い速度に慣れているが、訓練していない者などは気絶するのではないかと心配になるほどだ。


 とはいえ、艦を制御している二人の熾天使はそのような衝撃などものともせず、第二宇宙速度突破だとか大気圏突破まであと何メートルだとか冷静に運転を続けてくれているようだ。肝心の艦長は――シモンは戦闘要員ではないので心配だが――どうやらドワーフの頑強な身体のおかげなのか、作業こそできていないもののこの強力なGに耐えているようであった。


 高度が昇っていくにつれて徐々に衝撃が和らいでいき、それに合わせて音も徐々になくなっていく。外の空気が薄くなり、摩擦が生じにくくなっているのだろう――そして艦を揺らす衝撃が無くなるの合わせて展開されていたバリアが消え、艦首が一度水平に戻されると、ブリッジの強化ガラスの外には、真っ暗な空間に星々が瞬くのが見えた。下に横たわる星が青く見えないのは、発進が夜であったせいだろう――実の所、少々青く美しく見えるのを期待していたのだが。


「これが、宇宙……本当に、僕は宇宙に来たんだな……」


 シモンが窓の外を見ながらそう呆然と呟いた。彼にとっては宇宙に出ることは悲願の一つであり、それは亡きダン・ヒュペリオンとの約束でもあった。そういう意味では感無量だろう。彼の父とは因縁のあった自分としても、宇宙へと出た彼の喜びも自分のことのように感じられるし――それに、外の光景も確かに素晴らしい。遠くには宝石をちりばめたような鮮烈に光る星々が瞬いており、それらは地上で見るよりもじっと近く感じられる。


 その光景にしばらく見惚れている傍らで、宇宙空間だというのに浮遊感を感じていないことに気づく。そう言えば、艦内に重力発生装置が稼働しているから、普段と同じように行動できるとか何とか――。


 ともかく、あれやこれやと感動に浸っている時間もないようだ。宇宙空間へと抜けて少し手を落ち着けていた二人の熾天使の周りに無数のホロウィンドが浮かび始め、またすぐに慌ただしくオペレーションを始める。もはやここは敵の射程圏であり、のんびり宇宙の旅を楽しんでいる暇などないということなのだろう、イスラ―フィールがマイクに向けて口を開いた。

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