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14-46:リーゼロッテとの想い出 下

「……別に、力推しである必要はないんじゃないの?」


 自分がどうするべきかと頭を悩ませていると、エルの方からそんな声が上がった。


「だって、リーゼロッテは別に『次こそ殺してやる』と言った訳じゃないわ。それなら、別に剣を握ることだけが勝敗ではないでしょう? 彼女は単純にアナタに負け続けて悔しかったら、今度こそって思っているだけよ」

「まぁ、それもそうかもしれないが……アイツとはそういう間柄だったから、あんまり腕っぷし以外での決着ってのは想像できないな」

「そうでしょうね……でも、時と場所が変われば、リーゼロッテの魂だってまったく別の成長をするんじゃないかしら。もし平和な世界に生を受けたら、それこそ一度も剣を握らない人生だってあり得るんだから」

「それじゃあ、どうやって勝敗をつけるんだ?」

「そんなことは二人で決めてよ……と言いたいところだけれど、何だっていいんじゃない? 単純にカードとかでもいいかもしれないし……それこそ、たとえばこうやって二人で絵を描いて、どちらが上手いと勝敗をつけてみるとか、色々とあると思うわ」


 なるほど、別に物理的な手段でなくとも勝敗をつけられるという点は同意できる。とはいえ、エルが提案してくれた勝負の方法はしっくりこないのも確かだ。カードなどは一度で雌雄を決する物でないし、絵の評価は単一でない――使う技法によって印象が異なるだけで在り、単純な上下などは存在しないからだ。


 要するに、雌雄を決する勝負というのは、相対的な評価で行われる競技よりも絶対的な勝負でないとつきにくいものなのだろう。そう考えれば――我ながら血なまぐさい発想になるが――命を懸けた勝負というのは、本来は確実な上下関係が生まれるという点では単純明白だ。もし勝者が敗者にトドメを刺すなら、その関係性は永久に逆転を見ないからだ。逆に、リーゼロッテが言うように、自分がその決定的な判定を避け続けたからこそ、こうやって一万年の時を経て再び巡り合い、刃をかわすことになったというのは皮肉な面もあるだろうが。


 しかし剣によらない大勝負となれば、果たしてどんな内容のものが相応しいのか。別に今決めたところでそれを次に彼女と出会った時に覚えているわけではないだろうし、またこちらが一方的に勝負の内容を決めるのも不公平というのもある。いや、思い返せば向こうが一方的に因縁をつけてきただけで、自分としてはもう少し――。


「ねぇ、アラン。なんとなくだけれど……アナタ、リーゼロッテのことが好きだったんじゃない?」


 そう聞かれて思わずぎくりとしてしまう。それはべスターが見せてくれた記憶の中には無かった、オリジナルの自分だけが持つ秘められた想いだったからだ。


 もちろん、本気だったかと言われれば――言い訳のようにもなるが――そうではないとも言える。大前提は敵同士であったし、性格的にも合っていたとも思わない。何より自分など全身を改造されている機械人間であった訳で、もはや男女の関係とか、そういうことを諦めていたのだ。


 ただ、彼女と接していて単純に嬉しかった部分もある。それは、暗殺者としての自分を心配してくれている人物が居るということ――二課の面々も自分の心配はしてくれたが、べスターたちは身内であり、言葉を選ばずに言えば気の置けない家族のような存在であった。それに対してリーゼロッテは外部の人間であり、その立場でありながらこちらを慮ってくれることが、単純に嬉しかったのだ。


 もしかすると、初めて人を手にかけた時に彼女が憐れんでくれなければ、自分は大きく道を踏み外していたかもしれない。浴びる鮮血を浴びて慄いていた時、彼女が心配してくれたからこそ――あぁ、やはりこんなことをするのは異常なんだと、改めて気付かされてもらえた。それ故に、自分の技は碌なもんじゃない、それを常に肝に銘じることができ、そして彼女の顔を見るたびにそれを再確認できた。


 もしローレンス・アシモフを暗殺した時に彼女が居なければ、自分は自らの技に溺れていたかもしれない。もし彼女が自分を追ってくれなかったら、自分は暗殺者として真の意味で完成をしたのかも――人を殺めることを何とも思わず、それこそ殺戮をするだけの機械になり下がっていたかもしれない。


 とはいえ、その恐ろしい嗅覚で何度も目の前に立ちはだかり、手を焼かされたことも間違いない。その恐ろしいまでの執念を向けられていることに関して、少々優越感というか、「常に追ってきてくれる」という安心感があったのも、彼女を意識していた原因でもある。


 それに何より――。


「……セクシーなお姉ちゃんだったことは認める」

「何よ、それ……でも、否定はしないのね?」

「まぁ、憎からず思ってたのは認めるさ。でも、別に好みのタイプってわけだった訳じゃないし、性格もあってたとも思わないしな」

「そう……ちなみに、リーゼロッテもアナタのことを別に異性として好きじゃないとか言っていたけれど、そういう所は似た者同士よ、アナタ達は」


 エル曰く、リーゼロッテはこちらのことを生意気な弟のように思っていたとか。こちらの感想もセクシーなお姉ちゃんなので、確かに似た者同士かもしれない。そんな風に考えていると、エルは風に髪をなびかせながら――以前より短くなったが、これはこれで彼女に合っている――今度は少しためらう感じで視線を上げてきた。

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