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14-43:高原にて クラウディア・アリギエーリの場合 下

「……恩返しばっかりで真面目だな」

「真面目が服を着て歩いているとよく言われますからね。でも三つめは、ちゃんと私自身の願いなんですよ?」

「へぇ、教えてくれよ」

「……当ててみてください?」


 天に向かっていた紫色の瞳がこちらへと注がれ、そして再びこちらの腕をつかむ力が強くなった。当ててみろというか、当たってるんだが――いや、流石にこの流れで「わからない」と言うほど鈍いつもりでもないし、しかし彼女の上気している顔を見ると頭が真っ白になりそうというか――そうどぎまぎしていると、クラウディアはけらけらと笑って後、ようやっとこちらの腕を解放してくれた。


「あはは、そんなに困らないでくださいよー……大丈夫、分かってますよ。色々とね」


 そう言って立ち上がり、少女は自分が貸していた外套を肩から外して、大事そうに腕の上に乗せてこちらへと差し出してきた。


「ありがとうございました。あったかかったですよ、これ」

「いいのか? 別荘まで送っていくから、それまで羽織ってくれてても……」

「えー? 良いんですか? 誰かに見られちゃうかもしれませんよ?」


 そう言いながら、彼女は意地悪そうに目を細める。確かにこんな夜中に男女が二人一緒にいるところなど見られたら、あらぬ噂というか、変な誤解が生まれてもおかしくはない。いや、ある意味ではそれこそ自分がへたれているだけとも言えるのだが――まだ色々な事に踏ん切りが着いていない状態で彼女たちの気持ちに向き合うのも違うように思うのだ。


 だから変に周囲に誤解を与えるのも違うと思うし、しかし同時にここで「そうだな」なんていうのも彼女に対して失礼にあたる。そんな風に思って困っていると、また少女は口元を手で隠してくつくつと笑った。


「そんなにあたふたしてちゃ、年上だ―なんて言えないですよね?」

「返す言葉もない……」

「……一つ勘違いしないで欲しいのは、私だってくっついてるの、結構恥ずかしかったんですからね? でも……それ以上にあったかくて、元気をもらえちゃいましたから。アラン君、ありがとうございます」


 クラウディアは最初から羽織っていたケープを抱きしめながら、深々と頭を下げてきた。


「それじゃあ、名残惜しいですが、私はそろそろ戻ることにします。アラン君、良い夢を」

「あぁ……それじゃあまた明日な、クラウディア」

「はい……あの、最後になんですけど、クラウディアって名前を呼ぶの、ちょっと長くないですか?」


 その言葉と一緒に顔を上げ、少女はこちらをじっと見てくる。自分でも何の気なしに呼び方を変えていたのだが――以前に自分が言って的中していたことがふと思い出され、それをそのまま口にすることにする。


「クラウとティアでクラウディアだったんだから、俺はクラウディアって呼ぶことにするよ」


 これを出会った当初に言った時には呆れられたものだが、要するに自分が呼び名を変えていた理由はこれだったのだ。クラウと呼べばティアがいないし、ティアと呼べばクラウがいない。それらは今の彼女を呼ぶのに相応しい名ではないように思うのだ。


 もちろん、彼女本人は呼び方など気にするタイプでもないと思うし、好きに読んでも問題ないと思うのだが――好きに呼んで良いのなら、好きに呼ぶことにするだけだ。それが思いのほかイイ所に当たったのか、少女は驚いたように目を見開き、しかしすぐに嬉しそうに細めた。


「ふふ……うん、そうですね。実はクラウディアって呼んでもらえるのは嬉しいので、それじゃあそのままでお願いします」


 少女は頬を紅色に染め、同時に満面の笑みを浮かべて満足そうに頷き、そして少し慌てたようにそそくさと別荘の方へと歩いて行った。今日はやられっぱなしだったから、最後の最後に少しは反撃ができたとほっと胸をなでおろし――自分の方は彼女から受け取った外套を膝の上に置き、そのまましばらく夜風にあたり、上気した身体を冷やしてから寝床に戻ることにしたのだった。

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