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14-42:高原にて クラウディア・アリギエーリの場合 中

「なぁ、戦いが終わった後のこととか、何か考えていたりするか?」

「アラン君、そういうのはフラグになるんですよ?」

「大丈夫だ、俺が皆を絶対に護ってみせるから」


 多分こちらが少し落ち着きたい意図も察してくれたのか、彼女も少し腕の力を緩め――とはいっても離してくれるわけではないのだが――クラウディアは「そういう問題でもないと思いますけど」とため息をひとつ、そして再び光がちりばめられている水面へと視線を落とした。


「そうですね……私としては、やりたいことが三つほどあります」

「へぇ、結構あるな……聞いてもいいか?」

「はい。まず、アガタさんのお手伝いをしたいなぁと。実際、彼女にはたくさん助けられましたしね」

「なるほど、それじゃあ戦いが終わったら教会に戻るのか?」


 しかしそれだと、一度異端とされて追放された場所にわざわざ戻るということになる。元はと言えばルーナが悪いと言えども、それも少々理不尽な話だとも思うのだが――そう思っていると、クラウディアは小さく首を横に振った。


「本格的に教会に戻る気はないんです。一応、私は元々ルーナの信徒ですし、一時期は魔王征伐のお供として名前も出されていたくらいですから、異端として追放されたことを加味しても教会内に影響力を持つことはできると思います。でも、あんまり自分がそういうことをしてるのって想像つかないんですよね。

 それこそ、火力マシマシのとっつきとか作ってる方がテンションも上がっちゃうようなタイプなので、人の上に立って導く、なーんてのは向いてないんじゃないかと」

「はは、違いない……タイガーファングは良かった、ありがとうな」


 「違いない」という部分に関しては、彼女が教会で影響力を持てないだろうと侮っている訳ではなく、素直な同意だった。むしろその気になれば、彼女は人の上にだって立つことはできると思う。相手の立場を理解し、心に寄り添う優しさのある彼女は、強力な指導者ではないとしても、良き先導者としての素質は備えているからだ。


 だが、彼女の良さは前や上というより、むしろ隣にあってこそ発揮されるような気もする。同じ立場に立ち、側に寄り添うことで、相手を支える――そんな立ち位置の方がしっくりくるように思う。だから、人の上に立つというのには少々違和感を覚えるのだろう。


 それに、彼女はルーナやレムどころではなく、その更に一つ上の概念の声を直に聞けるという世界にたった一人の力を宿している。その気になれば既存の宗派を根絶して、新たな教えを開くことだって可能なはず。


 しかし彼女はそんなことは望まないだろう。クラウディア・アリギエーリにとって高次元存在の声が聞こえるというのは、目の前のことを一生懸命にやるためなのであり、それを政治の道具として使うタイプではないからだ。


 何より、彼女は誰かを動かすよりは、自分自身で手を動かしている方が性に合っているに違いない。あのパイルバンカーは自分もテンションが上がったし――そんな風に思っていると、クラウディアはこちらの礼に対して「いえいえ」と少し謙遜して見せた後、顔を湖の方へと向けて今度は星空を見上げた。


「なので、どちらかといえば混乱が収まるまで、忙しくて目を回していそうなアガタさんを支える事に専念したいかなぁと思っている感じですね」

「なるほど、アガタも喜ぶと思うぜ……それで、二つ目は?」

「ステラ院長に恩返しがしたいなぁと思ってます。私がこうやってここまで来れたのは、ステラ院長の教えがあってこそだと思うんです……もちろん、アラン君たちにもたくさん助けられてっていうのもあるんですが、考え方とか、生き方とか、そういうことは全部、本当は全部あそこで既に学んでいたように思いますから。

 具体的には……教会の再編が落ち着いたら、孤児院に戻って職員をやろうかなって。今日の朝まで子供たちに囲まれて、改めて思ったと言いますか……此度の戦乱が収束しても、その爪痕は大きく残ってしまっていますから。そんな戦禍に残された子供が一人でも真っすぐに育てるように、お手伝いしたいなぁと思っています」


 クラウディアは空の輝きを見つめ続けながらそう続けた。まったく、彼女は立派だ――この世界の災禍の中心で翻弄され続け、それでも何を恨むわけでもなく、誰かのためにあろうとするのだから。


 ふと、彼女の祈りが実現されている場面を想像してみる。自分もあの孤児院にはお世話になったし、子供たちも含めてその有り様を脳裏に思い描くことは容易だ。穏かで優しい院長の元、元気に育つ少年少女たち。しっかり者でユーモアもあるクラウディアなら、きっと子供たちの人気者になるのだろう。


 そんな彼女と子供たちが、春には花の萌芽を喜び、夏には清流に遊び、秋には葡萄を収穫し、冬には暖炉の前で肩を寄せ合い温め合う――そんな牧歌的な情景がありありと浮かび、どこか懐かしいような、愛おしいような心地すらしてくる。


 人と自然とが織り成す四季折々の美しい景色を描くことができるのなら――そんな一つの可能性が脳裏に浮かび、そして過ぎ去っていく。孤児院の生活は大変そうではあるものの、なんとなく自分の性にも合っている気もするし、彼女を支えながら生きていく、そんな道もあるんじゃないかと、自然とそんな思いが浮かび上がってくる。


 しかし、彼女は立派過ぎるという風にも思う。これだけ世界に翻弄されてきたのだから、もう少し我儘を言っても良いと思うのだ。

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