14-40:高次元存在の真意 下
「……なんだか神妙な表情をしていますね?」
「あぁ……結局、俺たちは高次元存在の派閥争いの代弁者として使われているってことだろう? それが納得できなくってな」
「ふふ、なるほどなるほど……きっと高次元存在は、アナタのそういう反抗的な所が好きなんだと思います」
少女は得心した、という感じで頷き、そしてすぐに再び瞼を閉じてゆっくりと話し出す。
「私が分かるのは、あくまでもイメージだけ……それに、高次元存在が嘘をつかないという確証もありません。ですから、これはあくまでも私の個人的な意見という風にとってもらっても良いのですが……。
どちらかといえば、派閥があって対立が生まれたのでなく、意志があって派閥が生まれた、というのが正確な所だと思います」
「抽象的だな……」
「つまり、高次元存在に何某をしたいという意志が最初からあった訳でなく、アラン君と星右京を見て、それぞれの意見を支持する派閥が現れた、ということです。
そもそも、高次元存在には「そうあれかし」という考えはありません。それは彼らが意志や願いを持っていることに他なりませんが、そうであるならば人を作る理由が無かったからです。
願い叶えるのは、あくまでも有限の中にある人であり……その願いに呼応して、高次元存在は私たちと星右京とを見守る派閥に別れた。いいえ、もっと言えば、私たちの対立の果てにあるものこそが、答えなのかもしれないと見守っているのかもしれません」
彼女の言うことは直感的には理解できる。自分たちの戦いは代理戦争ではなく、対立が先に立ち、そこに各々のスポンサーが着いたというのが正確、ということなのだろう。しかし、同時に一つ違和感が出てくる。それは――。
「……俺はアイツと違って、世界に対して何の結論も持っちゃいない」
星右京の世界に対する答えは、恐ろしく消極的で破滅的であると同時に明確だ。それに対し、自分は何にも考えちゃいない。せいぜい、手の届く範囲でやれることをやろうと思っている程度のものであり、それはあくまでも行動の指針であって、世界に対する意味など微塵にも考えていないからだ。
「それなのに旗手にされているのに違和感があるってことですよね? でも、そんな難しい話じゃないと思いますよ。アナタの持つ素養の中に、答えがあると期待している……それくらいの話だと思います。
先ほど私が反抗的な所が良いんだと言いましたが……それは大いなる存在に尻込みせず、アナタは自分の魂で答えを出そうとするからこそ、高次元存在はアラン君を信頼しているんじゃないかなぁと。
それに、そんなに気負わなくたっていいんですよ。別に、明確な答えなんか出さなくたっていいんです。アナタの在り方に、周りが勝手に意味を見出すことだってあるんですから」
「……そういうもんか?」
「えぇ。それに結局、どこまでいってもアラン君はアラン君なんですから。人類を代表するのに相応しい高尚な考えを出すなんて誰も期待していません」
言葉そのものは嫌味に聞こえるが、クラウディアは屈託なく笑った。そして先ほど掛けた外套を抱きしめて、満天の星空を見上げる。
「きっと、世界に必要なのはそんなに高尚なものじゃないんです。もっと原始的で、根源的なもの……誰でも理解できるようなシンプルなものなんだと思います。
だから、アナタは難しく考えないで、いつものように居ればいい。変わらず星右京をぶっ飛ばしてやる、それくらいの気概で良いんだと思いますよ」
「それなら助かるんだがな」
「えぇ、それでいいんです」
自分のやりたいことをそのまま肯定されたような気がして、なんだか安心したような、同時に嬉しいような気持ちが沸いてきた。結局のところ、高次元存在が何を考えているのかなど分からないが、ひとまず彼女が背中を押してくれるのなら、それだけでも良いという心地すらしてくる。
そうだな、自分は思った通りにやるだけだ――そう思いながら満天の星空を見上げる。この無数の空の先、光年などという単位ですら言い表せないほどの遥か彼方、物質世界との境界線の向こう側から自分たちを監視している高次の意志たちも、星の輝きを通して自分の決意を後押ししてくれているような気がしてくる。
しばし場を静寂が支配し――聞こえるのは彼女の息遣いくらい――なんとなしに穏かな気持ちになっていると、ふと一陣の風が通り過ぎていった。その風の冷たさに現実に帰って来て、思わず身震いさせながら自らの両腕で自分の体を抱きしめる。
そういえば、上着を貸してしまっているのだった。完全なサイボーグならばこれくらいの気温はなんともないのだが、今は半分生身なのでばっちり寒さも感じてしまう。しかし、こんな風に寒がってちゃ気を使わせてしまうか――隣の見ると、クラウディアは大きな瞳でこちらをしばし眺めて後、どこか楽し気に目を細めた。




