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14-38:高次元存在に関する一つの考察 下

「まずは……アラン君、ありがとうございます。アナタが私を探してくれたから、私はこうやって戻ってくることができました」


 こちらこそ、と返そうとして隣を見ると、クラウディアは頬を紅潮させながらこちらを見て微笑んでいた。その美しさに――大人びたような、同時に無邪気なような、何とも表現しがたい綺麗さがある――見惚れていると、少女は正面に向きなおり、顔を上げて星を眺め始めた。


「凄く嬉しかったんですよ? ずっと迷子で、行き場所が分からなくて、不安だった所を見つけてもらえて」

「もう少し早く見つけられたら良かったんだがな」

「ふふ、確かに早ければ早いほど不安にならずに済んだかもしれないですが……でも、あのタイミングで良かったんですよ。海に囚われていたクラウも、現世に残っていたティアも、どちらにしても自分と向き合う時間が必要だったと思いますから」


 彼女が言うには、この一年間は――とくにティアの方が――辛い時間だったようだ。それはある意味では、生家で虐げられていた時以上の辛苦であったと。幼い日のクラウディア・アリギエーリは、望み叶えることを二つに分けることで、見事に苦難を乗り切って見せた。しかしこの一年間はそれが上手くいかず、ただ無力さに打ちひしがれていたと。


 だが、その時間があったからこそ、辛さをバネに成長することができたこと。同時に、自分やアガタ、レムの支えがあったからこそ耐えられ、成長できたということを語ってくれた。


 この一年の話が終わった後は、彼女の持つ高次元存在の情報が共有された。自分は高次元存在の意志という物はほとんど分からないが、クラウディアはイメージとして何となくのことは分かるらしい。


 彼女から共有されて一番衝撃だったのは――同時に嬉しくもあったことは――高次元存在は自分や彼女に対して、行動や思考をコントロールしていることは無い、ということだった。高次元存在が求めているのは、肉の器にある者が見せる揺らぎである。あくまでも世界に意味を求めているのであり、その行動を上位存在が規定してしまえば揺らぎが生じなくなるため、精神的な干渉はしてきていないらしい。


 ただ、その原理で言えば二つの疑問が生じる。まず第一に、自分が一万年前、高次元存在に見出されて現世に戻ったこと。高次元存在は、恐らくデイビット・クラークを止めるために自分を現世へと送り出した――これは世界を歪める行動には当たらないのか?


「うぅん、ちょっと待ってくださいね……うん、どうやらこういうことみたいです。曰く、彼を放置するとナンセンスに帰結する、と」

「どういうことだ?」

「私も完璧な言語化はできないので……何なら私はそのクラークという人を知りませんが……その人が目指したのは高次元存在を手中に収め、自らが次元の超越者として君臨する事でしたよね?」

「クラークは、それが自分でなくても良いとは言っていたが……恐らく、最後に残ったのはアイツだろうな」

「そうなると、結局デイビット・クラークという人は、高次元存在と何が違うのでしょう? もちろん、最初こそは手に入れた力を色々と試していくでしょうが……その行動を裁定する者も、評価する者もいなければ、結局は……クラークという人物は高次元存在と同じものになり、そして宇宙は再び一巡するだけだ、と」


 「再び」一巡するというのを、クラウディアは何気なく言ったに違いない。ただ、そこにこそ、恐らく高次元存在が自分をクラークに差し向けた本意が詰まっているように思う。つまり、この宇宙は二巡目なのか、はたまたそれ以上に巡った結果なのだろう。


 原初に存在した高次元存在は、最低でも一度はクラークに――ないしクラークと同等の力と意志の強さを持つ者に――よって掌握された。だが、その結果として彼は高次元存在と同じものになり下がり、世界に意味を見いだせなくなった結果として、原初の支配者は再び宇宙を創り出した。


 要するに、もう一度クラークが宇宙を掌握すれば、結果として同じことが何百億年の単位で――下手すれば兆年か、そもそも人の尺度では語りえないほど長い時間を掛けて――もう一度巡るだけになる。高次元存在はそれを避けるために、デイビット・クラークという傑物を止める刺客を差し向けたということなのだろう。


 しかし、それはややもすれば、クラーク自身の壮大な自殺とも言えるのかもしれない。長い長い時を巡って再び自分と同じような者が出てきた時に、自分を止めるための暗殺者を差し向けたということになるのだから。


 自死はある意味では能動的な行動の極致と言ったのはチェン・ジュンダーであったか。今自分たちを見守っている高次元存在と、自分が戦ったデイビット・クラークは厳密に言えば別の存在なのだろうが――能動性の究極を見せたという点では彼らしいとすら思ってしまう。

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