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14-33:高原にて ソフィア・オーウェルの場合 中

 ソフィアと話をしたかったのは、この一年のことについて、そしてその主たる内容はグロリアとのことについてだった。以前、テレサを見ていた感じだと――彼女も生き残っていたらしいことを聞き、胸をなでおろす――少しずつ人格が混じっていってしまうのではないかと思っていたのだが、むしろソフィアとグロリアに関しては上手く共存ができているらしい。


 それどころか、最近はグロリアの思考や記憶を垣間見えなくなっている部分があるようだ。それによる別に拒絶反応のようなものは出ていないとのことであり、ソフィアとしてはグロリアの考えが分からなくなって不安に思っているようだ。


 自分の中に別の人格があるというのは、本来なら嫌悪感を覚えそうなものだが。いや、相手によるか。自分の脳裏にはしばらくべスターが住みついていたし、それに対して嫌悪感が無かったのは、自分がべスターのことを信頼していたからだろう。


 そうでなくともレムには色々と筒抜けな訳だが、実はこちらに関しては嫌悪感が無いと言えば嘘になる。元からそういう物としてこの地に蘇らせられたので仕方がないと割り切っていた部分はあるのだが、やはり思考を読まれるというのは気持ちの良いものではないからだ。


 そこでふと気づいたのは、べスターは自分の脳に住み着いてこそいたものの、こちらの感情や思考を完全に把握していた訳ではなかったことだ。こちらが話かけなければコミュニケーションを取れなかったわけだし――しかも黄金色の海を漂う前は、緊急時しか会話もできなかった。


 それに対してソフィアとグロリアは常に互いの思考と感情を共有する間柄になっている。そうなると互いに覚悟をして一緒になったのだろうが、本来は思考を完全なる別人と共有するのは、やはり抵抗があるもののはず。


 とくにソフィアのように理知的な者ならなおさら。ソフィアは様々な可能性を考慮するだけの思考力があり、その中には恐らく冷徹な決断も含まれる。それが他人に見られるとなればあまり良い気はしないと思うのだが――むしろ思考を共有できなくなることに不安を感じるというのは、相手に絶大の信頼を置いていなければ出てこない発想だろう。


「……ちなみに、昨日は私が早めに寝たから、グロリアとアランさんが何を話したのかは私は知らないんだ。でも、今日のグロリアは凄く機嫌が良かったし、それに嬉しいって想いが伝わってきたから……きっと楽しかったんだろうなぁって思う。

 それできっと、今度はグロリアが私に気を使ってくれたの。アランさんと二人っきりで話せるようにって」


 そう言いながら、ソフィアは一度別荘の方を向いて、大切なものを見るような眼差しをそちらへ向けた。しかしすぐに、グロリアは意地悪で、自分のことを子ども扱いすると言って頬を膨らませ――この仕草は以前にもよく見たもので思わず笑ってしまうと、我らが准将殿のお餅はより大きく膨らんだ。


 グロリアのことを話すソフィアの顔には、年相応か、はたまたそれよりも幼い部分が見え隠れしている。それは恐らく、ソフィアがグロリアのことを信頼しており、またグロリアには甘えられるという証左でもあるように感じられ、自分としても何となくだが安心することができた。ソフィア・オーウェルに必要なのはそういう相手だと思っていたから。


 その小さな肩に大きな使命を背負わされてしまったからこそ、頼れる相手、甘えられる相手が必要だと。それが自分の知るグロリア・アシモフであったというのは、また奇妙な因果が働いていると思う。しかも、ソフィアもグロリアも自分にとっては恩人でもある。その二人が一緒に居るということが何となく嬉しくもあり、しかし同時にやはり同居することの難しさを考えると心配になるような、複雑な心地がしてくる。


「……ねぇ、アランさん。この戦いが終わったら、やりたい事ってあるの?」


 だしぬけにそんな質問を投げかけられ、思わず腕を組んで彼女の質問について考える。そもそも、戦いの前に願いを口にするというのはジンクス的にマズいのでは。実際に、旧世界において自分はDAPAとの戦いの後のことを話したから――しかも皮肉なことに、相談相手によって屠られてしまったという苦い経験がある。


 とはいえ、こういうのはそれこそジンクスであり、折角出された話題をふいにするほどのものでもないだろう。何より、今度こそ自分が気をつければ良いだけでもある。そう思い直し、彼女の質問に対する返答をすることにするのだが――。


「そうだなぁ……俺は戻って来たばっかりだから、あんまり考えていないな。ソフィアは何か考えはあるのか?」

「私も、あんまり考えてなかったな。それこそ、つい先日までは討ち死にして本望くらいに思ってた訳だし……」


 討ち死に覚悟とは武士か何かかと突っ込みたくなったが、ソフィア・オーウェルはこういう子だった――などと思っていると、ソフィアは物騒さを吹き飛ばすような可憐な笑みを浮かべて、自らの顔の隣で指を二本立てた。


「でも、そうだね。二つあるかな」

「ほほう……聞いても良いかな?」


 こちらの質問に対しソフィアは頷き、立てていた指の内の一つを折り曲げた。

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