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14-30:セブンス、あるいはナナコという少女 中

「つまり、私がアランさんを初めて見た時にどこかで会った感じがしたのは……」

「多分、ナナコの……いいや、夢野七瀬の魂が、俺のことを覚えていたんだろうな」

「そう、だったんですね……クローンのクローンである私は、事故のことすら覚えてなかったんですけど……でも、その、七瀬を助けてくれてありがとうございます」


 そう言いながら、ナナコは正座のまま深々とこちらに向けて頭を下げてきた。


「いいや、俺の方こそナナコには感謝しないといけないからな。君が頑張ってきてくれたから、俺もこうやって筆を握れるわけだからな。だから、お互い様さ」


 今は話に集中していて絵は全く進んでいないのだが――しかしこうやってやりたいことをできているのは、彼女の頑張りは絶対に無視できない。ともかく今日はまだ使ってない筆をクルクルと回していると、ナナコも「えへへ、そうですか?」とはにかみながら顔を上げた。


「そうさ。まぁ言ってみれば、俺たちは事故友だな」

「そうですね、事故友ですね! ……って、なんかその友達は不謹慎極まりない感じなんじゃないでしょうか!?」


 やはりナナコはリアクションが大きくて話していて楽しい、そんな風に思っていると、ソフィアが小さく唇を尖らせているのが視界に入ってくる。


「……なんだか、ナナコにちょっと嫉妬しちゃうな」

「えっ……ソフィアも事故友になりたいってこと!?」


 ソフィアの一言にナナコは大きく肩を揺らした。流石に事故友になりたいということは無いだろうが――実際にソフィアはナナコの天然に関しては首を振っている。とはいえ、嫉妬しているといったわりに、ソフィアの表情は穏やかだ。ソフィアの場合は上手く本心を隠しているということも考えられるのだが、気を許しているナナコに対してそんなことをするとも思えないので、恐らく嫉妬という表現は適切でなく、何かしらの羨望を銀髪の少女に見たというのが正確な所なのだろう。


「アランさんが夢野七瀬を救ったことが、全ての始まりだった……そう思うと、ナナコはアランさんにとって特別な存在なんだろうって思って」


 何が全ての始まりだったのか。それを断言するのは難しいが、少なくとも自分が特殊な力を持って現世に戻ってきたのはナナセを救ったことに起因する。もしあの日に自分がナナセを助けなければ、恐らくクラークによって目的は達成され――仮に旧世界で失敗したとしてもクラークが残っていれば、七柱の創造神たちは存在せず、奴の強権によってより揺らぎのない管理社会が生まれていたに違いない。


 ともかく、あの日に自分が救った少女が、巡り巡って自分と再び出会い、力を合わせて戦うことになるということには不思議な因果を感じる。あの日に自分が彼女を救ったことがここまで続いていたことを考えれば、確かにあの瞬間こそが全ての始まりだったとも言えるし、事実自分もそうだと思っている。


 自分とナナセの出会いを「始まりだった」と称したソフィアは、口元に指をあてながら首を傾げている。あの感じは、彼女が何か思考をしているふりを時の癖であり――アレは既に答えを出していて敢えて思惑しているふりをしている時の所作だ。


「でも、ナナセはどうしてアランさんに救われたことで剣の腕を磨いたんだろう?」

「それは……T3さんから聞いただけだけど……本来は自分が死んでいたはずなのに、代わりに死んでしまった人がいるから……その代わりに自分が誰かを助けられるようにって思ってってことらしいよ」

「でも、クローンのナナセはあくまでも記憶を植え付けられただけだから、そこまで具体的な想いを持っているのは不思議かなぁって。それこそ、七柱の創造神たちが精密に彼女の脳に落とし込んでいたのなら、ナナセが動機を言えたこと自体には納得するけれど……それは本物のナナセの願いだったのかな?」


 そこで話を切り、二人の少女は芝生の上でちょこんと立っているレムの方を見つめた。対する女神はまたゆっくりと首を振ることで応える。


「私たちの方でアンドロイドに覚えさせていたのは、正確に言えば記憶でなくて記録です。私たちは、ナナセが歩んできた軌跡を可能な限り追って、それを覚えさせることはできますが、精密な感情や想いは彼女の中だけにあるものです。

 恐らくクローンのナナセは、記録から記憶を作ったのでしょう……エピソードから想いを後付けで作ったのだと思います」

「それじゃあ、オリジナルの願いは分からない、ですかね……ナナコはどう思う?」


 ソフィアはナナコの方へと振り向き、首を傾げて真っすぐと彼女の方を見つめた。対するナナコは、ソフィアの真意を測りかねているのだろう、小首を傾げていると、ソフィアが「オリジナルのナナセが剣の腕を磨いた理由について」と補足した。


 ナナコはほぅ、と息を吐きながら手を叩き合わせ、そしてしばらく瞳を閉じ――風が吹き、二人の少女の髪を揺らし――そしてナナコは目を閉じたまま話し出す。

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