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14-28:聖剣の勇者の虚構について 下

「一応聞くんだが……どうして現地民の中から勇者を選別するんじゃなくて、旧世界の人物のクローンを使ったんだ? 別に神託を受けたとか何とか言い訳をつけて、機構剣を使わせることだって不可能じゃなかったと思うんだが」

「そこに関してはその通りなのですが……右京のこだわりですね」

「はぁ? アイツのこだわり?」

「えぇ。この世界の機構の多くは彼の考案で、その大半は合理的な判断に基づいていると思われるのですが、時おり変なこだわりを見せてがんと動かないことがあったんですよね……まぁ、確かに異世界から魔王を倒すために来たという神秘性と、機構剣を扱うのに抵抗もないということで、彼の意見に賛成する理由がなくとも反対する理由もなかったので、そのまま採用された形です」


 そう言われて、自分は過去のことを思い出した。星右京はヒーローや英雄、勇者というものに対する憧れがあった。それはべスターとの記憶の共有の中でも片鱗は見えたが、実は自分だけが知る彼の特性がある。それは右京がいわゆる「異世界の勇者」というタイプの英雄譚を好んだということだ。


 実は自分は右京から、そういった類の創作物のおすすめを受けており、実際にオフの時間を使って幾つかの作品に実際に触れもした。もちろん、右京に勧められる前からそういった種類の創作は知っていたのだが――とくに科学技術が大いに発展した旧世界において、ある種のノスタルジーとしてファンタジー作品が大衆に好まれる傾向にあったと思う――自分は高校生にもなるとそこまで熱心にそういった作品に触れていなかったため、右京の熱量には圧倒されたこともあったほどだ。


 要するに、アイツはこの世界において、自分の好きな世界観を創り出そうとした側面があったのかもしれない。大前提としては進歩を停滞させやすい社会体制が必要であり、それには実際に暗黒期であった中世が相応しかったのも間違いない。この世界は彼が壮大な自死を迎えるためのディストピアでなければならなかったものの、そのディティールについてはこだわりを優先させた部分もあるのではないか。


 言ってしまえば、ジオフロントで自分の国を作ったフレデリック・キーツの世界規模バージョンとも言える。もちろん、実際に人の命を使ってこだわりの世界観を表現するなど悪趣味なことは間違いないのだが――右京の人間らしい部分が垣間見えたことに少し安心感が芽生えたのも確かだった。


 さて、そんな右京のこだわりにおける異世界の勇者とは、次のような条件で選定されたようだ。まず第一にDAPAがその遺伝子情報を保管していること。これに関しては旧世界にDAおいてDAPAが秘密裏に集めていた優秀な人材の遺伝子情報のデータベースがあり、これを活用したとのことだった。


「私って優秀な人間だと思われてたんですか!?」

「ナナコじゃなくて、オリジナルの夢野七瀬が、だね」


 優秀と言われてテンションが上がっているナナコに対し、笑顔で釘を刺して黙らせるソフィアを恐ろしいと思っていると、レムが良い笑顔を浮かべながら話を続ける。


「夢野七瀬がDAPAに目をつけられたのは、主にその身体能力が原因ですね。遺伝子情報が摂取された時、彼女は十七歳という年齢でしたが……超高校級の剣術の達人、という点が評価されてのことでした。

 彼女の生家の近くに古武術の道場があり、幼少のころから通っていたそうですが、ある時を境に修練に力を入れて、中学のうちにその頭角を表し、高校時分にはその剣の腕において右に出る者はいないと称されたほどです。

 補足で、勉強も一生懸命やっていたようですが、どちらかといえば身体を動かす方が得意だったようで、成績においては並がそれ以下くらいでしたね」


 折角途中まで褒めていたのに――そのおかげかソフィアに刺されたナナコのテンションも復活していたのに――今度はレムから並以下と言われてしまい、銀髪の少女はしゅんと沈んでしまった。


「でも、ナナコには勉強以外で良い所がたくさんあるから!」

「うぅ……褒められているような、けなされているような……でもありがとう、ソフィア」


 さて、勇者として選定される要因はあと二つある。一つは人となりが理解できており、人格の再構築がしやすいということ。もう一つが勇者として適切な人格を持っていること――単純に軽犯罪歴がある者や危険思想を持つ者は候補から弾かれ、クローンとして再構築した時に勇者として適切な倫理観を持てるような人材が選出された、とのことだった。


 この地で生を受けた聖剣の勇者にも生体チップは埋められているので、その気になれば人格矯正は可能であったようだが、やはり生来持つ気質というものは肉体に宿るものでもある。そのため、元から気質が優れている者が勇者として選ばれたということだった。


 その点において、夢野七瀬の勇者としての事前評価は非常に高いものだった。剣の腕で知られる彼女は比較的有名人でもあり、その経歴や人格について疑うところは一切ない。成績が並以下といってもあくまでも学校の成績での話であり、相対的に見れば平均以上の知性も兼ね備えている。むしろ、あまりにIQが高すぎると世界の虚構に気付かれる可能性もあるので、そういった意味でも夢野七瀬は勇者として最高の素体として考えられていたようだった。


 補足として、小松真一という少年については――右京の転写先であり、晴子との息子のクローンについて――本来なら別の人物が選定される予定であったが、それを右京がデータベースを書き換えたことで無理やり第九代としてねじ込んだようだ。レムを除けば七柱の中に逐一候補者を覚えている者も居なかったので、それで簡単に押し通せてしまったというのが事の顛末だった。

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