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14-21:仄明かりの下で 上

 グロリアが自分の寝床を尋ねてきたのは夜も深くなり始めた時だった。そのせいか彼女の態度もどこか遠慮がちなものであり、しばし言葉に詰まる彼女を眺めていると「変なことを言ってごめんなさい」と言いながら扉の帆へと戻ろうとしてしまう。


「いや、今から描くよ」

「え、でも……アナタも疲れてるんじゃない?」

「いいや、話してたもんな。描いて欲しいってさ」


 そう言いながら、自分は脇に置いていたカンテラを持ち上げて立ち上がった。自分が少々返答が遅れたのは、別に彼女のことを描きたくなかった訳でも、呆然としていた訳でもない。ただ、彼女がこの時間に訪問してきた意味を考えていた――意外と気を使う子ではあるから、わざわざこんな夜更けを選んできたと言うのは、きっと何某かの意味があるのだろう。


 恐らく、思考を共有するソフィアが寝てからの方が良いと考えたのではないか。別にソフィアをのけ者にしたい訳でもないが、先ほど考えたようにグロリアとは積もる話もある。自分が忘れてしまっていた一万年前のこと、自分が亡くなった後のこと、右京のこと、べスターのことなど――もう彼女としか共有できない思い出話が多くあるのも間違いないのだから。


 ついでに少し返答に困っていた理由として、機械の体を描けばいいのかと勘違いしていたから、というのもある。それをそのまま口にしたところ、「バカバカバカ!」と思いっきり嘴で頭をつつかれたことは納得いかないが、そう言えば機械の鳥からホログラムで在りし日のグロリア・アシモフの姿を映し出すことができることを思い出した。


 天上の出っ張りにカンテラの取っ手を通し、部屋の光源を確保する。自分が画材を用意している間に、機械の鳥の目から部屋の一部に光が照射され、粗末な椅子の上に少女の姿が浮かび上がった。


 改めて彼女のその姿を見ると、想い出の中にある少女よりも一回り大きくなっているように見える。ちょっと癖のある柔らかそうな巻き毛に、元からスレンダーでしゅっとした印象だったのはそのまま、着ている衣服はACOで支給されている女性用の制服で、半袖とタイトな短めのスカートから長い手足をどこか気難しそうな様子で組んでいる。女性らしく成長したソフィアと比較すると、どちらかと言えばモデルのような美しさ、という印象だった。


 ホログラムによって浮かび上がっているせいか、ほの青い粒子が立ち昇っているのがまた神秘的だ――そんな風に思いながら見つめていると、グロリアは僅かにそっぽを向いて唇を尖らせた。


「……その、変じゃない?」

「あぁ、大丈夫だ……しかしビックリしたな。元から可愛い子だと思ってたけれど、すっかり綺麗になっていてさ」

「ばっ……その、ありがと……」


 グロリアは一瞬だけこちらを向いて目を見開いたが、またすぐにそっぽを向き、少し前髪の毛先を引っ張った後、手足を組みなおした。あまりいい加減なことを言うと、また嘴攻撃を食らう可能性があるな――そう思いながら口をつぐみ、ひとまず彼女の綺麗な横顔をそのままスケッチとして取っていくことにする。


 全体の構図を決め、さっとクロッキーを仕上げたタイミングで、グロリアはハッとした表情を浮かべてこちらへ向き直った。


「そうだ、ちょっと言うのが遅かったけれど……晴子、できればアランと二人にして欲しいの」


 言われてみれば、特に何も言わなければレムは自分を通して状況を見ていることだろう。そして実際にその通りだったのか、機械の鳥が映し出すホログラムに交じり、人形サイズの長い黒髪の女神が少女の膝の上に姿を現した。


「うぅむ、元とは言えアランさんと血縁関係のある私としては、夜中に女の子と二人っきりというのをキチンと監視しておかないといけないと言いますか……」

「あのね、そんなの良い趣味とは言えないし……何より、自分は私やべスターがいない無い時に右京とよろしくやってた訳でしょう?」

「それを言われると弱いですねぇ。まぁ、確かにあんまり覗き見って言うのも趣味が良くないというのも自覚はありますし、若い二人でのんびりしてくださいな」


 レムはわざとらしく「おほほほ」と笑い声を残して少女の膝の上から姿を消した。自分を含めて三人とも一万年の時を超えて存在しているわけで、わざわざ若いと言われるのも妙な感じはするが――体感時間としてはレムが圧倒的に多かったことは疑うまでもないだろう。


 そうなれば、彼女の言ったこともあながち嘘でもないのか、などと思っていると、グロリアのホロはきょろきょろと辺りを見回し始めた。どうやら、本当にレムが監視していないか気配を手繰っているようだった。

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