表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
863/992

14-10:旧世界のローザ・オールディスについて 上

 まずはローザ・オールディスの略歴と人となりについて。ローザは大学で社会心理学を専攻し、優秀な成績で博士号まで取得した。その後は大学に残ることはせず、彼女はDAPAが一角、通信会社の最奥手であるアルファ社の研究室に所属した。


 アルファ社の詳細について質問したところ――もちろん社名は知っているし何をしている会社だったかも認識しているが、自分が知りたいのはその裏側だ――レムはこちらが筆を走らせるのに合わせて話を続ける。


 まず基本情報としては以下になる。そもそもアルファ社こそ、かのデイビット・クラークが一番最初にその勢力下においたDAPA内の最大勢力。その業務は多岐にわたり、大本は検索エンジンやクラウドサービスを提供する企業として発展していき、その過程でSNSや動画サイトを多く買収していった。


 テレビ関係や新聞社などのオールドメディアの併合には消極的で――これらは政府の失墜に併せてほとんどその役目を終えた――あった一方で、万人が利用しうるインターネット社会において影響力のあるメディアの大半はアルファ社の影響下にあった。


 大戦後はダイナミクス・モーターズ技術部門で連携し、新規の通信衛星の打ち上げと管理、またマルチファンクション端末の開発と販売も行っていた。要するに、世界規模で通信インフラと情報はアルファ社に牛耳られていたと言っていい。後続の通信会社などはダンピングや買収で徹底的につぶすことができる。政府が失墜して後は独占禁止などに関する法律も機能しにくくなっており、もはやアルファ社の寡占状態を止められるものは誰もいなかったのだ。


 インターネットとMF端末を牛耳っているとなれば、アルファ社の元にありとあらゆる情報が一元管理されるようになる。MFウォッチでGPS情報に脈拍、それに個人のクレジット履歴に関する情報、果ては検索履歴やウェブの閲覧履歴から個人の趣味や性向に関する情報まで集約される――そういった意味で、旧世界の管理社会を作り上げていたのはアルファ社であったのだ。もちろんその情報が膨大過ぎる故に管理も難しく、ACOは一部その隙を突いて活動をしていた部分もあるらしい。


 さて、DAPAにおけるアルファ社の役割は、端的に言えば人心のコントロールにある。人々の停滞感を増長させ、進化の袋小路に叩き込む。ジム・リーを筆頭としたインフルエンサーのスポンサーもアルファ社であり、晴子自身も右京の勧めで入社したのがアルファ社であったようだ。


「へぇ……ちなみに晴子はアルファ社で何をやってたんだ?」

『……良いじゃないですか、そんなことは今更じゃありません?』

「まぁ、確かに褒められたことをしてた訳じゃないんだろうが……そんなこと言ったらお互い様だろう?」


 むしろ、直接的にその手を血に染めていた自分と比べれば、何をしていたとしても彼女の方がマシだろう。もちろんペンは剣より強しともいうし、その影響力を考えれば間接的な功罪は彼女の方が大きいのかもしれないが、それでも今更ではあるし、兄としては彼女が何をしたいのか確認しておきたい。


 そんなこちらの思考まで彼女は理解しているはずであり、しかしやはり言いたくないのか、レムは珍しくごにょごにょと口ごもっている様子だ。


『えぇっと……その、情報統制と言いますか……』

「なんだ、歯切れが悪いな……つまり?」

『AIを活用して人が多く見るSNSや動画のコメント欄などにですね……世論をコントロールする情報を自動的に流していたと言いますか……』

「要は、BOTを使ってクソリプを量産してたってことか?」


 こちらの歯に衣着せぬ表現に対し、どうやら図星であったらしくレムは「うぐぅ」とうめき声をあげて押し黙った。確かにやっていたことがそれでは、言いよどむのも無理もないかもしれない。確かに、家族に「クソリプを量産していました」とは報告しにくいものもあるだろう。


 今にして思えば、アガタが時おり独特の語感で話をしていたのは、旧世界において晴子がクソリプを――もとい、乱暴な言葉遣いなどをAIに学ばせ、流布していたせいかもしれない。日常的に攻撃的な言葉を使っていたせいで、日常的に晴子自身もついついそんな言葉が出るようになってしまったとか、なんとなく妙に納得できる部分もある。


 それに、恐らく彼女なりに手に職をつけようと――また右京の役に立とうと必死に勉強して得た仕事に違いない。プログラムやAIに関して専門知識のなかった彼女がアルファ社というエリートが集う大企業においてついていくには、それこそ血のにじむような努力だって必要だったのは間違いないのだ。


 自分のそんなフォローを読み取ってか、レムは未だにバツの悪い様子で話を続ける。


『まぁその……私のやっていたことって、旧世界においてはそんなに大きな影響力は無かったんです。単純接触効果により否定的な意見がたくさん目につくことで多少は影響もあったと思うのですが、実際の所は名もないBOTが生み出す大量の悪口雑言より、インフルエンサーなどによる思想や言論の方が遥かに影響力はあったはずです。

 私のやったことが旧世界においてあんまり功を奏さなかったのは、素直に聖典にも記載していますよ……婉曲表現ではありますが』

「そう言えば、主神の詔を古の神々に伝えていたけれど、あまり聞き入れてもらえなかったとか……それがまさかクソリプの量産だったとは思いもよらなかったが」

『ぬぐぅ……まぁともかく、そんな折です。私が彼女……ローザ・オールディスと出会ったのは』


 ローザ・オールディスがアルファ社に所属しており、インフルエンサーをしていたことは過去の記憶を取り戻した今なら把握している。しかし、彼女もまた、その仕事に関してはあまり芽が出なかったことも聞かされているが、実のところはどうだったのか。とくにオリジナルが死んだ後に彼女がどんなことをしていたのか、それを聞いてみたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ