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14-4:月の防衛機能について 上

 世情に関する問題に関しての話の続きは――ある種これが最大の問題だろうが――一気に戻った人口を養うだけの食料である。黄金症から復帰した人々の数を考えれば、人口は一気に三倍に膨れ上がったに等しい。それに対してこの一年間、人々は自衛のために戦いに明け暮れ、そうでなくとも魔王征伐と重なったこの時期では農地は荒れ果てたまま放置されているため、人々を養い得るほどの食料が無いという問題があるとのことだった。


 この点に関しては、海と月の塔を中心としたいくつかの拠点に有事の際に備えられていた保存食を解放しつつ、荒れ果てた農地に関しては一時的に化学肥料を使って生産を早めることで対処を考えているようだった。


「……しかし、それでも向こう一年で全人口を養うだけの食料を確保することは難しいです。そしてここから付随して第二の話……これから私たちが具体的にどうするべきかのお話に移ります」


 レムの話の続きは次のようになる。端的に言えば、オールディスの月へと攻め込むべきというのがレムの意見だった。それはわざわざ明言しなくてもこの場にいる者たち全員が予見していたことであるのだが、彼女からすると以下のような観点からも月の奪取が必要ということだった。


 第一に、もし右京やローザ・オールディスが自棄を起こして月の破棄をしてしまえば、惑星レムの重力や自転、公転周期に大きな狂いが生じ、人の住めない星になってしまう。この星が正式にアシモフの子らに継承されるとなれば、まずそれは避けねばならない事態である。今のところはまだ人工の月は不穏な動きを見せていないようだが、今後何が起こるかも分からない。


 第二に、人工の月には様々な資材が保管されており、その中には保存食もあるということ。それらを軌道エレベーターで運び込むことで、不足している食料を補うこともできるし、またそれをルーナ派の基で配布できれば――実際、食料の大半は塔の上から支給される――分解しかけている教会の権威を立て直すことに繋がるかもしれない。


 人はパンのみに生くるにあらずと言えども、それはパンが足りていればこその話だ。飢えは精神で克服することはできない。肉の本能が最低限充足されていればこそ、魂はその真価を発揮する。ともなれば、喫緊の課題として食料問題の解決にルーナ派が噛みさえすれば、それだけ人々の信頼を早急に取り戻すことに繋がるという訳だ。


 そして、軌道エレベーターを使うとなれば、自然と月のコントロールを奪取しなければならないことになる。レムリアの民たちの明日のためにも、月の攻略は必要になるということだった。


 第三に――これが全員が思っていることであるが――万年続く因縁に決着をつけるべきということ。大勢は昨日で決したようにも見えるが、右京が高次元存在に対して何某かウイルスを送ったとなれば、ここから一気にまくられてしまうことだってあり得る。


 つまり、様々な観点から鑑みて、やはり月に残る右京達を倒す必要がある。先日は結局アイツを直接殴れなかったから、自分としても消化不良――というのは冗談だとしても、アイツを止めなければならないという決意には揺るぎはない。


 ふと、自分の心持ちに対して疑問が生じる。過去の因縁に決着をつける、右京を止める、それらに関しては全くの本心ではあるのだが、なぜ自分は「アイツを殺す」または「アイツに復讐をする」という感覚が希薄なのか。相応の仕打ちは受けているし、相応の報復をして然るべきなのだが、まだ自分の中に星右京という男に対する情けが残っているというのか。


 もちろん、アイツはそんな同情などいらないとでも言うだろうが――そんな風に思っていると、レムの背後のスクリーンが切り替わり、オールディスの月の内部に関するデータらしきものが映し出された。球を半分に切った円状の断面の中に大まかな月の構造が現されており、その中に四人の顔写真と一点とが線で結びつけられている。一つ、リーゼロッテ・ハインラインの顔写真が灰色になっているところを見るに、顔写真が繋ぐ先にはそれぞれ七柱の創造神達の領域があることを示していると思われた。

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