14-1:黄金症を克服した世界について 上
光の巨人との激戦の後、自分たちはひとまずノーチラス号の中で静養をしていた。やるべきこと、知るべきことがたくさんあるのだが、それに関してはレムに一任している。海と月の塔の管理を取り戻した今の彼女なら、各所にある監視カメラを利用して世界の情勢を確認しながら、同時に右京が放ってきたウイルスの解析もできる。それに、疲れも知らない。彼女に妹の人格を認めている自分としては仕事を放り投げているようで申し訳ない部分もあったのだが、自分がじたばたしたところで事態が何か進展するわけでもないし、彼女の厚意に素直に甘えることにした。
より正確に言うと、レムと幾許かやりとりした後、自分はいつもの如くぶっ倒れてしまったというのが正しい。以前と違って身体は馴染んでこそいるものの、一年も海を揺蕩っており――オリジナルに関しては一万年も保存液の中だった訳だが――その上で強敵との連戦に全力を出したせいか、結局目が覚めたら丸一日経過していた。そしていつもの如く恐ろしいほどの空腹と共に目が覚めたらソフィアが――今回ばかりは彼女もしっかり眠っていたらしく、目の下にクマは無かったが――抱きついてきたのだった。
結局、艦内で目覚めたのは自分が最も遅かったようだ。レムの調査結果の全容は、すでにチェンやグロリアには共有されているらしいが、ひとまず差し迫って対応しなければならないことは無いということで、自分は腹の虫を収めるために大量の飯をかっ込むことから始めた。
この一年間で世界は荒れ果てた結果、調理するような食料は貴重であり、塔に保管されていた保存食のような物が出されたのだが、ひとまずしっかりと栄養をつけて活力を取り戻したい。エルには一年ぶりの飯だというのによくもそんなにガツガツ食えるものだと呆れられたが、そんな彼女の調子が懐かしく、その感動をおかずに更にもう一皿分を胃に収めた。
そんな調子で腹も満たされて眠気も来たのだが、状況の説明のために一度集まって欲しいとレムの声で艦内放送が響き、ソフィアとグロリア、エルと共にブリッジへと向かった。自分たちは比較的早めに着いたらしく、ひとまず空いている適当な椅子に腰かけて待つことにする。
現在ノーチラスは海都近くの平野部に停泊しており、正面の窓からは広大な海と天を衝く塔とが臨める。その様子をぼぅっと見ながら――本来は色々と考えるべきこともあるのだが、今は材料が少なく思考も回らない――待っていると、次第に面々がブリッジに集まり、最後にナナコが「すいません、遅くなりました!」と深々と頭を下げながら入室したことでメンバーが一室の中に集結した。
いや、正確には一名いないのだが――その最後のメンバーは、部屋の中央にホログラムとしてその姿を現した。彼女は黒く長い髪を揺らしながら辺りを見回し、そして咳ばらいを一つしてから話し始める。
「改めまして、昨日はお疲れ様でした。皆さんのおかげで星右京達を海と月の塔から追い出し、その結果として私は以前と同等の権限を取り戻し、かつ右京の呪縛から逃れることができました。
さて、皆さんに共有するべき事項は以下の三つです。まずは光の巨人が去った後の世界の状況と、星右京が送り込んできたウイルスについて、最後に今後の我々が取るべき行動についてです。ウイルスについて知りたい人も多いと思いますが……こちらに関しては不明な点も多くあるので、ひとまず世界の状況から説明しますね」
惑星を取り巻く衛星はまだ右京らに抑えられているので世情も完全には把握しきれてはいないのですが、レムはそう言いながら世界の情勢について語りだした。
まず、各地で暴れまわっていた第五世代型アンドロイドたちについて。ひとまず彼らはその活動を停止しているようだった。第五世代たちへの命令権は彼らを製造した最後の世代に――基本的には七柱を指す――帰属し、もし管理が放棄された場合には彼らは自らのベースへと帰還して、次なる管理者と命令を待つまでは待機するようになっている。
元々地上で眠っていた第五世代型に対する権限は、その大半はレムかアシモフ、ルーナに帰属していた。レムやアシモフ管理下の第五世代たちが民衆を襲っていたのは、右京のハッキング・プログラムによって動かされていたが故だ。彼がその手を止めている今、その大半をレム側でコントロールできる様になったとのことらしく――まだ月で右京やルーナを護っている第五世代は存在するはずであり、完璧に彼らとの戦いが終わったという訳ではないのだが――ひとまず第五世代と第六世代の戦いには終止符が打たれた。そして今後の第五世代型の処遇については、ひとまず検討中とのことだった。




