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13-82:灼熱と冬寂 下


 ◆


 ブレイジングタイガーの勢いで海面を叩くと同時、リーゼロッテとの戦いとの時間を合わせ、変身のタイムリミットを迎えた。そして水面に巨大な波紋が生まれ、それらは津波となって周囲に立ち上がった。そして水面が元に戻ろうとする力が生まれると同時に、ソフィアが凍らせていた海水が上から落下してきて、自分の体はそのまま海流にもみくちゃにされながら、深くまで潜り込む形になった。


 光の巨人がどうなったのかを見届けるため、素早く水中を昇り始め――本来なら水圧に身体を鳴らしていくべきなのだが、サイボーグと融合した今の体なら多少の無茶は利く――勢いよく上昇を続け、そのまま水面へと顔を出す。


 既に海は金色でなく本来あるべき青を取り戻しており、自分が蹴りぬいてきた場所から光の粒子が霧散を始めており、それらの多くは陸を目指して飛んでいっているようだった。恐らく、海に囚われていた第六世代たちの魂が肉体へと戻っていっているのだろう。


 ひとまず、終わった。まだ課題はあるものの、この場でやるべきことは終わらせた。そんな安堵の気持ちに合わせて大きく息を吸い、後は仲間の誰かが自分を拾い上げてくれるのを海に揺蕩いながら待とうと――そう思っていた矢先の出来事だった。遥か空の向こうから何かが放たれた気配を感じた直後、複雑な光彩が見えたのは。


「アレは……マルドゥーク・ゲイザー!?」


 マルドゥーク・ゲイザーは僅かにその場に残っていた黄金色の粒子を呑み込み、海へと突き刺さった。その光線はしばらく天から降り注いだ後、にわかに消失し――光線が消え去った軌跡には、ただ透き通るような青い空が覗いており、ノーチラス号も顕在で、今の攻撃による被害は一切ないように見えた。


 だが、視界に何か歪みが生じる。それはまるで砂嵐のように中空に表れ――目をこすってみると、その歪みはすっかり消失していた。復活してから激戦続きで疲れが出たのか、または生身とサイボーグとが融合したことによる何か弊害でも出たことによる目の錯覚かとも思ったが、どことなく感じる言いようのない禍々しさは、自分の身が原因でないということを告げているようにも感じられた。


 世界の均衡が徐々に崩されていくような、そんな違和感。だが、それを言語化できるほど自分は賢くもないし、知識がある訳でもない。ただ、付き合いの長い自分の直感が、何かマズいと言っている――そんな胸騒ぎを感じていると、脳裏にレムの声が響き始める。


『私たちが集まっているところを一網打尽にしようとしたってことでしょうか?』

『いいや、そういう感じじゃなかった。アイツは光の巨人を狙って放ってきた……何か目的があるはずだ。レム、先ほどの光線の解析はできるか?』

『はい。すでに海と月の塔のコントロールは奪い返しましたから、恐らくすぐに解析できると思います』


 レムが解析を進めている傍ら、自分は助けに来てくれたソフィアに手を取られ、そのままノーチラス号へと帰投した。ブリッジには既に一同集まっており、正面にはレムのホログラムが立っており、その背後のスクリーンには世界各地の状況が映し出されている。レムが塔のコントロールを取り戻したことにより、各地に設置されている監視カメラを利用できるようになったということなのだろう。


 それを見る限りだと、世界中の至る所で人々は黄金症という病理を克服し始めているようだった。王都や馴染みの城塞都市、ダン・ヒュペリオンが作り上げた地下都市や世界樹など――自分が辿ってきた街や村で、物言わぬ金色の彫刻と化していた人々を覆っていた結晶が砕け始め、その中から一年の沈黙を破って第六世代たちが息を吹き返してきている。


 もちろん、問題は山積みだろう。自分はつい先ほどまで文字通り海の藻屑と化していたのであり、今の世情についてきちんと把握できているわけではない。しかし、一年も人口を激減させていた世界では、第一に食料問題は大きくのしかかってくるだろうし、他にも七柱の創造神が築き上げた社会秩序も信仰も無い世界が来ようとしているのだ。大混乱は避けられないだろう。


 しかし、このブリッジに集まっている一同が神妙な様子なのは、もっと別のことを心配しているからに違いない。あの星右京が、腹いせに何かをしてくるわけがない――先ほどの一撃には何か意味があるはず、その不安と疑問とが皆の心に重くのしかかっているせいで、勝利の喜びもないままに、解析を進めているレムの言葉を待っているのだろう。


 そしてある一定の答えを得たのか、目を瞑っていたレムがゆっくりと瞼を開き、一同をゆっくり見回した後、手を正面で組みながら静かに自分の方を見つめてきた。


「アランさん、先ほどの解析の結果が出ました……アナタの想像通り、アレは光の巨人の核に向かって放たれたものだったようです」

「それで、あれは何だったんだ?」

「先ほどのマルドゥーク・ゲイザーを利用した光線は、熱などの破壊的なエネルギーをもたないもの……アレは高度に暗号化された通信用のレーザーであり、莫大な容量のデータを三次元の壁を超えて送り込んだのです。つまり……」


 レムは言葉を切って背後にあるスクリーンの方へと振り返り、その一部分を指さす。何やら難しい文字列が大量に羅列されているが――彼女の神妙な表情を見るに、それが良い内容でないのはすぐに予想できた。


「星右京は、高次元存在に量子ウイルスを送り込んだのです。それがどのような影響を及ぼすのかは今の所では明言することはできませんが……海と月の塔に残された彼のレポートを見る限り、それは分の良い賭けではなかったようではあるものの、どうやら彼は最終手段として、自らの生み出したウイルスで無理やり高次元存在をその手中に収めようとしているのです」

【連絡事項】

ここまでお読みいただきありがとうございます!

13章はここまでになります。


本作はまだ見直しが必要なものの、一旦最後まで書き上げることができました。

引き続き見直しながら毎日投稿を続け、最終の投稿は2月の中旬を予定しています。


簡単な内容ですが、活動報告の方でもう少し細かく記載しています。

それでは、引き続きよろしくお願いします!

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