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3-12:昼間の模擬戦 エルとテレサの場合 下

「凄かったな、二人とも」

「アランさん! ありがとうございます!」


 テレサは満面の笑みで迎え入れてくれる一方、エルは軽く手を上げてこちらに応えるだけだった。


「しかし、凄い人込みだった……ですね」

「はい、ちょっと訓練のためにお義姉ねえ……エルさんに模擬戦をお願いしたのですが、自然と人が集まってきてしまいまして」

「成程なぁ。でもまぁ、片やレヴァル最強の剣士、片や勇者様のお供のお姫様、そりゃどうなるかは気にはなるわな……んですね」

 

 つい、エルが近くにいると敬語を忘れてしまう。それに対してテレサは苦笑い、エルは腕を組みながらあきれ顔でこちらを見ている。


「……アナタ、敬語止めたら? 感性が山賊なんだから、妙なことになってるわよ」

「え、エルさん、山賊は言いすぎなのでは……?」


 別にエルも本気で思っている訳ではないはずなので、こちらとしては気にはしていないのだが、せっかくお姫様の威光を借りられるので「そうだそうだー」と返しておくことにする。


 エルの視線が呆れから汚物を見るようなモノに変わったのには気付いていないのか、テレサは目を輝かせながらこちらを向いて両手をポン、と叩き合わせる。


「そうだ! アランさんも模擬戦してみませんか?」

「えっ……」


 今の自分の返事には、濁点が付いていると言って良いほど、妙な声で返事をしてしまった。


「エルさんやソフィアさんと一緒におられるのですから、アランさんも相当な達人なんですよね? シンイチ様も厚く信頼しているみたいですし……ちょっと、お手合わせお願いしたいです!」


 なんなんだろう、この子は意外と脳筋なのか、剣で語るタイプなのか、そして根が善良なせいで周りを疑うことも知らないことが掛け合わさって、こちらを見るその煌めく視線が刺さって痛い。


 そんな俺の気持ちを察してくれたのか、制止のためだろう、エルがテレサの肩を叩いた。


「残念ながら、アランの戦闘能力はそんなに高くないの……彼の仕事は索敵と投擲での援護。まぁ、一般の冒険者よりはやるくらいには出来るけれど。でも、アナタが手合わせしたら、それこそ吹き飛んでしまうわ」

「おい残念とか言うな、その表現はちょっと傷つくぞ」


 とはいえ、実際は助かった。流石に先ほどの二人の模擬戦を見て、自分がどうこうできるイメージは余りわかない。しかし、本人は助け船を出した気など無く本心だったのか、エルは本気で驚いたような表情をしている。


「そうなの……しぶとさだけが取り柄だと思っていたのに」

「あのなぁ、肉体と精神の丈夫さは違うの」


 いつも通りのやり取りをしていると、テレサが間でくつくつと笑った。


「ふふ、エルさんとアランさん、仲がいいんですね」

「あのねテレサ。貴女の目は節穴? 憎まれ口叩き合ってるじゃないの」

「逆に、それだけ明け透けで遠慮がないってことですよね……なんだかうらやましいです」


 そう言うと、テレサは少し寂し気に笑った。ふと、先日のシンイチとのやり取りを思い出す――アイツは人との間に妙な壁を作るし、アガタも多分同様。アレイスターは人は良さそうだが、世代が違いすぎて仲良くなるのとはまた違いそうだ。そうなると、テレサが明け透けなやり取りをうらやむのもなんとなくだが納得できる。


 なんだか神妙な雰囲気になってしまい、どうしたものかと考えて――そうだ、どうせ暇だったし、模擬戦はともかくとして訓練をつけてもらうのは良いかもしれない。


「そうだエル、俺、今暇なんだけど」

「イヤよ」

「せめて話くらい聞こう?」

「アナタの暇つぶしに付き合うほど暇じゃないの」

「そうは言うがな、真面目な話だ。稽古をつけてくれないかと思って」

「うーん、そうね……まぁ、それなら付き合わなくもないけれど……」


 エルは口元を抑えながら少し考え込み、テレサのほうを向いた。


「テレサ、良かったらでいいんだけど、さっきのアランとの模擬戦、やっぱりやりましょうか」

「はい! お任せください!」

「手加減はしてあげて……そうね、一兵卒相手にするくらいでいいわ。近距離戦はそれより全然できないかもだけれど、まぁその時はその時ね」

「かしこまりました!」

 

 なんだか自分と関係ないところで話があれよあれよと進んでいる。模擬戦にしても単純な稽古にしても、エルの方がなんとなく慣れた相手でいいのだが。


「えぇっと、相手はエルじゃないのか?」

「えぇ。思い返せば、アナタが近接戦闘しているところ、見たことないものね。なので、一通り癖みたいなものを見ておこうかなと。別に私が手合わせしてもいいのだけれど、先ほどこの子からお誘いが合ったわけだし、俯瞰的にじゃないと見えないものもあるから」

「なんだかもっともらしいことを言っているが、テレサに任せるのは実は自分でやるのは面倒だから、とかじゃないだろうな?」

「あら、バレた?」


 エルは珍しく悪戯っぽく笑った。面倒というのは冗談だろう。そもそも彼女は面倒見は良いのだ。手合わせ自体はいつでも出来るから、先に第三者と打ち合っているのを見ての動きを見たいので間違えでないらしい。


 そのままテレサと手合わせすることになり、こちらは先ほどエルが使っていたモノと、近くで借りてきた短剣の計二本。テレサは先ほどから持っている模造刀一本という形での手合わせになった。周りの兵たちは幾分かこちらに視線を向けているものの、自分が負けることが確定しているせいか先ほどのような人だかりは出来ていない。まぁ、そちらの方がありがたいのだが。

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