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13-69:潮風の吹く海峡の上で 上

 激戦は終わり、自分の身体の主たるリーゼロッテ・ハインラインは海と月の塔の外へと移動していた。場所は陸と海とを繋ぐ連絡橋部分で、自分達は塔側に、アランは陸側に位置している。


 塔の外へと移動したのは、単純に思いっきり戦うのに障害物が無い方が戦いやすいから。とくに二対の神剣やアランのレッドタイガーから繰り出される必殺技の威力を考えれば、塔の崩壊を招きかねない。軌道エレベーターとしての役割を果たせなかったとしても、海と月の塔には深海のモノリスをコントロールする役割があるので、これ以上の損壊は避ける必要がある。


 ともかく、アランの変身のクールタイムに少し時間が掛かるということで、今はただその時が来るのを待っていた。此度の戦闘においては七柱の創造神は完全に敗北した形であり、本来ならリーゼロッテ・ハインラインは敵陣にただ一人いる異分子のようなものなはずだが――ただ一人、クラウディア・アリギエーリだけが隣に並び、先ほどの戦闘で傷ついた身体を癒してくれていた。


「……私が言うのも変だけれど、アナタは変な奴ね」

「えへへぇ、そうですか? お褒めに預かり光栄ですねぇ」

「別に、褒めてないけれど……でも、この前やり合った相手に対して、治療を買って出るなんて……」

「そもそも、その身体がエルさんのものって言うのが大前提ですが……私はどこかの誰かさんみたく、一度手を合わせた相手に執着して、いつまでも追いまわしたりしないってだけですよ」


 クラウの皮肉に対し、さしものリーゼロッテ・ハインラインも何も言い返せなくなってしまったようだ。以前のクラウなら、神に対して皮肉を言うだなんて恐れ多いとでも言いそうだが、ティアと一体になったことでその辺りの柔軟性が増したのかもしれない。


 そしてこちらの治療が済んだのに合わせ、クラウは先ほどアランに取り上げられた抜き身の二刀をそっと差し出してくる。彼女なりにリーゼロッテのことを信用しての行動なのだろうが、本来は敵同士の相手に対し、武器をすぐに使える形で渡すなどというのは流石に甘すぎるのではないか――リーゼロッテも同じように思っているのか、差し出された刃をすぐには受け取らないでいると、正面の少女は紫色の瞳でこちらをじっと見つめながらゆっくりと口を開く。


「……私がアナタの立場だったら……せっかくながーく待ったデートですし、最高のコンディションで挑みたいって思うと思うんです。私は、アナタに後悔して欲しくないだけなんですよ」


 それにアラン君からも止められてないですし、クラウディア・アリギエーリは最後にはあっけらかんと繋げた。それに対しリーゼロッテはしばし無言のままクラウを見つめ――自分からは見えないが、恐らく唖然としているはずだ――そして自虐的に笑い、差し出された二対の剣をそっと受け取って鞘へと収めた。


「他人に対して甘いのは結構だけれど……それじゃ、獲物を猛獣に取られてしまうわよ?」

「そうかもしれないですけど……でも私は、私自身と彼のことを信じてますから」


 クラウはにこやかに笑いながらスカートを摘まみ上げてお辞儀をし、そのまま踵を返して塔の方へと戻っていく。リーゼロッテはその背中をじっと見つめ、ややあってからこちらへ心の声を向けてくる。


『あの子、とんでもない強敵だわ』

『そうね……凄く強いと思う』

『でも、あの子と戦うのは私ではないから……』


 リーゼロッテはそこで言葉を切り、振り返って橋の向こうで胡坐をかいて座っているアラン・スミスの方を眺めた。彼の方はソフィアが治療をしているらしく、金髪の少女が男の傍らでじっとしている。しかし、あの子も枢機卿クラスの回復魔法が使えるというのだから、治癒などすぐに済むと思うのだが――そんな風に思っていると、またリーゼロッテが自分に対して語り掛けてくる。

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