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13-66:一つの決着 下

「なんだい、君から聞いてきたから答えてあげたっていうのにさ……まぁ、いい。僕だって君らに許しを請うためにベラベラとしゃべった訳じゃあない。聞かれたから答えただけ……ついでに、時間を稼がせてもらっただけなんだからさ!」


 魔術神がそう叫んだタイミングで宙を浮いていた氷が落ち始める。それと全く同じタイミングで、崩落した塔の切れ間から黄金の剣閃が放たれた。剣戟は間違いなくアルジャーノンを狙っており――それを見た瞬間に今しかないと確信し、息を大きく吸い込んで前へと走り始める。


 刹那の内に起こったことを、まとめると以下のようになる。まず、アルジャーノンは黄金の剣戟を――合流したセブンスが崩落した壁から放った一撃だ――右手の結界で防ぐ。本来ならその一太刀は七星結界を上回る威力があるはずだが、セブンス自身が怪我のせいで万全でないせいか、それを貫通するには到っていないようだ。


 そして自分たちと同様、伏している間に回復していたナイチンゲイルが凄まじい速度で男の背後へ回って氷の刃で斬りかかろうとするが、魔術杖より放たれた真空の刃で押し返されてしまう。


 だが、それまでだ。アルジャーノンは少女たちの攻撃を防ぐため、生身の手と魔術の手、どちらも文字通りに手一杯――今なら完全なる穴が生じている。


 今度こそ強く踏み込み、一気に相手との間合いを詰め――背後で巨大な氷が床に落下する音が響き、全てを出し切った魔術神へと肉薄し――。


「……もらった!」


 がら空きになっている男の胸を目掛けて拳を突き出す。男の肋骨を粉砕しながら深々とこちらの手が体へと突き刺さり、そのまま腕を捻って男の心臓を破壊する。アルジャーノンは大きく吐血しながらも、こちらの一撃の威力で後方の壁へと吹き飛ばされた。


 普通の生物なら絶命する一撃だが、相手は七柱の創造神、何かしらの延命処置を施しているかもしれない。そう思って追撃のために前方へと跳ぶ。そして相手の首を飛ばすために手刀を相手の喉元に突きつけた瞬間、背後からまた乾いた音が聞こえ――それはアルジャーノンの魔術杖、ムスケェンタスが落下する音だった。


 血の涙を流す男の目を見ると、その瞳は虚ろであり、どこにも焦点が合っていなかった。男の体はそのまま重力によって正面から崩れ落ち――いくら魔法などで身体を強化したとて、魔術神アルジャーノンが宿っていたのはあくまでもアレイスター・ディックという生身の器であり、堅牢な魔術の壁を超えて触れられさえすれば、その防御力や生命力は突出したものではなかったと言うことになるのだろう。


 ならば、これ以上の追い打ちをすることもない。既に肉の器は脳死しており、アルジャーノンの精神を破壊することには成功した――後に残るのはアレイスター・ディックであった男の死骸だけであり、これ以上はソフィアの師の尊厳を踏みにじることになるからだ。


 強敵を一人倒したとしても、まだ気を緩める暇はない。まだ三柱、倒すべき敵が残っている。振り返って辺りの様子を見ると、ホールの奥から星右京が――アラン・スミスに追い詰められ、大剣を砕かれているようだ――こちらを見ているのが視界に入ってくる。


「ゴードン!? くっ……!」


 少年はこちらを見て驚愕の表情を浮かべると、その姿を塔の内部から完全に消失させる。そして今度はローザ・オールディスが慌てたように辺りを見回し始める。


「おい、右京!? どこへ行った!?」

「ローザ、アナタはエレベーターへ!」


 リーゼロッテ・ハインラインの声に身体が無条件で反応したのか、たまたま中央のエレベーターの付近に居たローザ・オールディスは言われた通りにエレベーターのボタンをせわしく押し始めた。


 ただ、彼女と対峙していたブラッドベリが、やすやすとそれを見逃す道理もない。


「逃がさぬ!」


 魔王が放った漆黒の衝撃波が、エレベーターごと破壊せんと床を抉りながら走っていく。アレが壊れてしまうと月へと行く手段が減ってしまうが、どの道軌道エレベーターは右京に封じられるだろうし、破壊してしまっても構わない――そう思いながら見ていると、漆黒の衝撃波は風の如く現れた武神の一閃により叩ききられてしまった。


 直後、エレベーターの扉が開き、ローザは中へと乗り込み――そのまま扉が閉じるまでに衝撃波、波動弓、黄金色の剣閃とが浴びせられるが、それらは全て女の掲げる宝剣に引き寄せられ、霧散していった。


「……これで、義理は果たしたわよ。後は好きにさせてもらうわ」


 そう言いながら、リーゼロッテ・ハインラインは真横に現れた空間の亀裂から――右京が差し出した救いの手だろう――目を背けた。その間に一同がエレベーターの元へと駆けつけ――女の喉元にはT3の斧にソフィアの氷の刃、セブンスの大剣にブラッドベリの拳とが突きつけられた。それに対して女はどこか不敵な笑みを浮かべながら武器を手放し、降参の合図と言わんばかりに諸手を上げたのだった。

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